せっかくの基幹システムが利用されていない

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2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。

コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。


P.216~

第5章
業務の実態に合わせたシステム運用が、企業成長の絶対条件

せっかくの基幹システムが利用されていない

S社の社員には、誰も基幹システムを骨抜きにしてやろうなどという意図はありませんでした。それどころか、ヒアリングの結果、それぞれが非常に真面目に工夫して仕事に取り組んでいることがわかりました。

しかし、皮肉なことに、各事業部、担当者が独自に工夫して仕事を進めれば進めるほど、全社的に統合されたシステム計画からは外れて、部分最適のバラバラなシステム環境になってしまうのです。

具体的に見てみましょう。

S社には、大きく分けるとメンズ事業部とレディース事業部と通販事業部の三つがありました。

たとえば、顧客管理においては、メンズ事業部は主にSシステムを、レディース事業部はSシステムとレディース部門独自のシステムの併用を、通販事業部は通販事業部独自のシステムを使っていることがわかりました。

メンズ事業部とレディース事業部では顧客層は明らかに異なりますが、通販事業部の顧客は両方と重なり合うところがあります。にもかかわらず、通販事業部が独自システムで顧客管理をしているので、顧客情報を統合することができていない状態でした。

あるいは、在庫管理においては、メンズ事業部はSシステムとエクセルの併用、レディース事業部は主にSシステム、そして通販事業部はエクセルやアクセスだけを用いていることがわかりました。

また、エクセルやアクセスを用いて、独自に工夫して在庫管理を行っていた社員に「なぜSシステムに在庫管理の機能があるのに使わないのか?」と質問したところ、「知らなかった」という答えが数多く返ってきました。ここからも、情報システム部門が、長期的な視野を持って社員教育を行っていない現状が見えてきます。しかし、Sシステムが使われない原因の多くは、機能面の不備にありました。

従業員へのヒアリングからは、次のような問題点が見えてきました。

「Sシステムの商品管理が品番単位でしかできず、加工後の管理ができないため、在庫管理に利用していない」

「Sシステムは使いづらい。在庫のロケーション管理もできない。不具合がまだあって信用できない」

「事業部ごとにやり方が異なるのに、Sシステムは全部を取り込んでいて、入力画面が使いづらいものになっている」

「Sシステムは月末に売上を登録するためにだけ使用している」

「Sシステムへの要望をあげても対応が遅い。Sシステムの保守管理のスキルを持っている人間が一人しかいない」

「社内全体のSシステムへの意見の取りまとめができていないので、社内で同意が得られていない修正になっている」Sシステムは導入から7年経っていましたが、明らかに全社基幹システムとしては機能していませんでした。

その理由は以下のとおりです。

  1. Sシステムは、もともとメインフレーム向けに開発されており、その後に追加開発を繰り返してアップデートしたものの、つぎはぎがひどくて時代遅れになっている。
  2. 全事業のシステムを取りまとめる責任者(システム管理者)がいないので、事業部によっては、現場の業務とシステム機能とが乖離している。
  3. IT投資の承認プロセスやルールが明確になっていなかったため、部門ごとに、承認の不要な小さなシステムが乱立してしまった。本来は必要な大規模なIT投資がなされてこなかった。
  4. 運用マニュアルが整備されていないため、Sシステムのすべての機能が利用されていない状況にある。
  5. 初期稼働時に不具合が多発したこと、不具合発生時の対応に時間がかかることなどから、社内にはSシステムへの不信感が根強くある。

そこで私たちは、情報システム部門を再編成し、きちんとしたITシステム管理者を任命するとともに、長期的なIT戦略を構築することを提案しました。

その過程で、新システムの導入が決定し、引き続き私どもの会社がシステム導入のお手伝いをすることになりました。

ITコンサルタントのコメント(2023年6月15日)

システムは導入して終わりではありません。産みの苦労があれば育ての苦労もあるように、企業は導入したシステムが有効に機能しているかを定期的にチェックし、必要な対応を適時適切に検討・実施していく必要があります。

導入時には十分に機能していたものが、何年か後にはろくに使えないものになっていることなどは珍しいことではありません。企業の経営環境・事業環境の変化とともに、システムに求められることも変化するからです。

改めて、導入から7年が経過したSシステムの利用状況を見てみましょう。レディース事業部と通販事業部では、それぞれ独自のシステムを導入しています。在庫管理と顧客管理に関しては、レディース事業部ではSシステムが併用されていますが、通販事業部ではSシステムは全く利用されていません。S社ではシステム導入後の7年間で、レディース事業部と通販事業部に関する環境変化があったのかもしれません。

S社に必要だったのは、環境の変化や、その時々のシステムの利用状況を的確に把握し、それに合わせてシステムの機能や使い方を最適化していくことでした。特に基幹システムのように大規模なシステムの場合、そう簡単に別なシステムに乗り換えることはできません。もちろん、最初の製品・ベンダー選定や導入のプロジェクト推進も大事ですが、導入後にシステムをいかに育てていくか、という視点も必要です。


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