システムの提案と導入に向けた計画をたてる新しいIT

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2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。

コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。


P.163~

第4章
「To Beモデル」のシステム構築&改修で、業務効率・収益力を向上させる

新しいITシステムの提案と導入に向けた計画をたてる

当初は、システム改善計画の策定を目的に活動してきたプロジェクトでしたが、調査を進めるうちに、システムの改善だけではとうてい株式公開(IPO)に耐えられないであろうことが、徐々に判明してきました。

そこで、私たちはシステム改善の方向性を次のように計画し、再構築を前提とした基本方針を提案しました。

 

(1) 株式公開に備えた過去データの整備
最優先で実施すべきは、メインフレームの統合情報システム上の過去データを、可能な限り抽出・加工できるかたちのデータに整備・蓄積しておくことでした。そのためには、メインフレームの過去システムの独自データベースのままでは困難であることから、オープンシステム系のデータベースに、各種のコード体系を整備してコンバージョン(変換)する必要がありました。

 

(2) 一般会計と管理会計の分離
ほころびが次々とあらわになっている会計システムも、早急に改善する必要がありました。まず、決算書・財務諸表作成のための一般会計(財務会計)を、すべての業務の最終到達点とするべく、K社の業種に適した「建設業会計」のパッケージ・システムを利用して、経理業務の最適化を図る必要がありました。

一方、管理会計においては、その独自性が重要となることから、パッケージ・システムからデータを抽出・加工して、システムの外で、K社のシステム部門によって、エクセルなどを利用した帳票作成や数値分析を行うことが望まれました。

 

(3) 事業の形態と金額の規模に応じた管理手法の必要性
K社のビジネスは、建設、建装、情報通信工事からファシリティー・マネジメント、システム運用、さらにはシステム開発に至るまで多岐にわたっていました。

また、金額的にも下は数万円の工事から数億円規模の建設まで幅が広く、一律のシステムで管理することは不可能な状況にありました。

そこで、コストパフォーマンスを考慮しつつ、効率的かつ効果的な管理手法により、内部統制を考える必要がありました。

それぞれの現場に対して実施したヒアリングからは「システムの縛りをもっとゆるくしてほしい」などの声も上がっており、従来行っていたシステムへの入力強制が内部統制の強化に結びついていない現状がわかりました。もっと足元をよく見て、業務システムを設計・導入することが重要と考えました。

具体的には、事業ごとに、一定金額以下の案件については見積りや工事予算の上長承認やシステムへの入力は不要にする反面、それ以上の案件については見積り時の承認を必須にする他、引合段階からシステムへの入力を必須にするなどのルール決めが必要でした。

このルールの導入にあたっては、これまでのシステム開発の轍を踏まないためにも、現場の業務担当者を参画させ、十分な議論を重ねる必要がありました。

 

(4)建設業会計に対応した会計システムへの変更
監査法人の推奨で導入した財務会計システムが、建設業会計に対応していないことはすでに述べたとおりです。

また、債権・債務の管理機能がないため、それを補うための機能が統合情報システムという名目で多額の費用をかけて開発されました。

本来、建設業会計に対応した会計パッケージソフトであれば、不用な開発費用を削減できるばかりか、オリジナル開発につきもののバグによる障害のリスクも低減可能となります。

(5) 業務プロセスに応じた機能をシステムに持たせる
システムへの入力が求められる場面においては、机上の理想ではなく、実際の業務に合わせた業務プロセスが求められます。

現場の人間が無理なくムダなく作業できるように、徹底したヒアリングを行い、業務に合わせて柔軟に入力できる機能要件を付加しました。

 

(6) システムの一元化で、データを共有する
管理部門向けシステム、現場向けシステムなどと分けることなく、データが一元管理できるERP指向のシステムを目指すべきです。

これまでのシステムも、統合情報システムを名乗ってはいましたが、実際にはシステムの内部は統合されていませんでした。メインフレームに情報を集めて管理することを企図していたようですが、システム構造がそれぞれで異なるために、データの受け渡し時に問題が発生していました。必要なのは、データベースを一元管理することです。システムごとに独立したデータベースを持つことなく、案件台帳、工事台帳、原価、売掛、買掛、総勘定元帳など、すべてのデータベースを一元管理することで、データの受け渡しに関するトラブルも、処理のタイムラグもなくなります。

 

(7) オープンシステム化
任意にデータを抽出・加工して現場部門が利用できるようにするには、メインフレームなどの独自OSのシステムでは問題がありました。
理由の一つは、K社内の技術者では対応が困難であることです。二つ目の理由は、Windows ベースのシステムでなければ、エクセルなどの使い慣れたツールを利用できないことです。

そのため、メインフレームを捨てて、オープンシステムの基盤に移行する必要がありました。

当時すでにコールセンターの現場では、Windowsベースのサーバーで端末1500台規模のシステムが24時間365日で稼働していましたので、安価なオープンシステムであっても、安定性には問題ないと考えました。

 

(8) クライアントPCの環境や性能に依存しないシステム
フロントエンドシステムをPCにインストールするための標準環境は、Windows 95とマイクロソフト・オフィス97となっていました。

しかし、とある事業所では、得意先とのデータのやりとりのためにアクセス2000を使う必要があり、オフィスのバージョンが異なるために、フロントエンドシステムがインストールできないなどの問題が起きていました。

クライアントPCの環境によっては、フロントエンドシステムが利用できなかったのです。
そのため、実態としては、全営業所でも10台程度にしかシステムがインストールされていませんでした。

また、地方の小規模営業所ではネットワークの回線が細いため、システムの応答時間が遅く、快適に使えない状況であると思われました。

加えてシステム改修の際には必ずプログラムを入れ替える必要があるなど、PCの台数が増えるに従って、ヘルプデスクなどの維持管理にかかるコストが増加していました。

そこで、TCO(総保有コスト)の削減を考えて、クライアントPCの環境に依存せず、バージョンアップの手間等も軽減できるように、ターミナルサーバーやウェブをベースとしたシステムを推奨しました。

 


 

以上の基本方針をもとに、新システムの導入計画がたてられ、K社が抱えていたシステムトラブルはすべて解決しました。

ちなみに、私どもの会社がK社からコンサルティング報酬として受け取ったのは、約340万円にすぎません。監査法人がおそらくは何千万円もの報酬を受け取っていったのに比べれば、実にコストパフォーマンスの高い仕事をしたと自負しています。

ITコンサルタントのコメント(2022年12月01日)

こちらで事例とした案件は、実際には現在から10年以上前の出来事でした。
「システム改善の方向性」とした内容の多くは、最近の案件でもよくある改善の方向性です。
その中から、2点をピックアップして、コメントします。

(2) 一般会計と管理会計の分離
基幹業務システム(主に会計・販売管理の領域)をカスタマイズし過ぎて、市販のパッケージにリプレースすることが困難になっているケースに、よく直面します。
カスタマイズし過ぎている機能の一つに、管理会計機能が挙げられます。
会計や販売管理システム内に、企業ごとに独特の管理会計の仕組みを埋め込んでいるケースが多いのです。
同じ機能を市販のパッケージシステム内で実現しようとすると、多くの場合に膨大なカスタマイズ工数・費用が発生します。
基幹業務システムに機能追加・カスタマイズすることで管理会計ができるようにするのは、一見すると最適なようにも見えます。しかしながら、基幹業務システムを長く使ったり、定期的にリプレースすることを考えると、大きな足かせになることが多いのです。
身の回りの企業では、管理会計にこだわりを持つ経営者の場合ほど、基幹業務システムに管理会計機能を埋め込んで、後から苦しむことが多いと感じています。
一般会計(財務会計)と管理会計をシステムでどのように切り分けて実装するか、しっかりと考えてシステム導入をする必要があります。

(3)事業の形態と金額の規模に応じた管理手法の必要性
見積書の承認ルールやプロセスは、意外と整備されていない企業が多いです。
具体的には、以下のような実態の企業が多いと思います。
・営業担当者が作成した見積書を、誰も承認せずに得意先に提出している
・営業担当者が作成した見積書すべてを、上長が承認してから得意先に提出している。

見積書の承認ルール・プロセスがまったくないのは問題だと思いますが、全てを上長承認するルールも、企業によっては現実的ではありません。

例えば、以下のような売上構成比率の企業があったとします。
売上の8割 : 1,000万円以上の案件 × 8件
売上の2割 ; 10万円以下の案件 × 200件

この場合、10万円以下の案件は件数が多いですが、一件ごとの金額が小さく、売上全体に占める割合も 2割です。
一方で、1,000万円以上の案件は、件数は少ないですが、売上の8割を占めます。
どちらの案件を重点的に見積書の確認・承認すべきかといえば、明らかに 1,000万円以上の案件といえます。
10万円以下の案件まで上長承認をする場合は、スピード感も損ねますし、確認する側の手間が増え、結果的にしっかりと確認せずに承認されるなど、デメリットのほうが多いといえます。

このように、「事業の形態と金額の規模に応じた管理」は、ガバナンスの観点、業務効率の観点、どちらからみても重要であるといえます。

 


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