データが適切に入力されないのには理由がある

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2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。

コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。


P.151~

第4章
「To Beモデル」のシステム構築&改修で、業務効率・収益力を向上させる

データが適切に入力されないのには理由がある

K社のシステムには、「システム間でのデータの整合性がとれない」という大きな瑕疵がありました。

それはすでに述べたように、金額の修正を誰がどこで行うのかのルールがなく、やむを得ず会計システムで行っていたために、統合業務システムとの間で齟齬が生じたものです。

詳しく解説しましょう。

まず、売掛については、経理部が入金情報を日々銀行より得て情報を加味し、各事業部門に報告および不明入金の確認依頼等を行っていました。

しかし、経理部において請求金額(売上高)と入金額との突合に必要な情報(入金額とひも付けのできる請求番号や納品書番号など)が不足しているために、正確な売上額を確定することが困難な状況でした。
そのため、売掛金残高管理(売掛金の消し込み)に影響を及ぼす結果となっていたのです。このような状況になったのは、そもそもフロントエンドのシステムが十分に機能していないために、請求書が単体のPCで発行されており、会計システムの売掛残高との整合性をチェックすることが困難となっていたからです。

部署によっては、それぞれ請求書の控えを保管し、売掛元帳をエクセルで作成・管理しているところもありますが、経理では請求書の控えもなく、請求残高が把握できていないため、全社ベースでの請求書発行済の残高と売掛残高が把握できていません。したがって、請求書発行済の残高と売掛残高が不一致となっても、その原因追究が困難な状況にあります。

一つ間違えば架空売上の不正行為も発見できなくなる恐れがあることから、請求書と売上をひも付けて管理できる仕組みが早急に必要であると考えられました。

また、買掛については、各事業部門で発生する支払い情報について、現場のフロントエンドシステムでの支払い申請入力がタイムリーに行われておらず、月末に処理が集中していました。

このため、経理部では月末に支払いに関する仕訳入力を集中して行わなければならない状況となっていたのです。経理部ではこの状況を回避するため、現場からの支払申請書をもとに直接に会計システムへの入力を行っていました。

このため、会計システムの残高が狂ったまま、システムの外でエクセルシートを駆使した買掛残管理をせざるを得ない状況を招いていたのです。

当該状況を生み出した原因として、役割分担(支払い情報の登録・修正を経理、各事業部門のどちらで行うか)が不明確であること、現場のフロントエンドシステムと経理の会計システムがスムーズに連携していないことが挙げられます。

また、買掛の計上が月末に集中して行われていたために、経理の月次決算も遅れてしまい、翌月の半ば頃まで確定しない状況でした。

本来、会計システムの役割の一つは、その月の決算を月末に締めたら、翌月頭にはすぐに月次決算を経営者に提出して、経営指標として役立ててもらうことにあるはずです。

しかし、業者への支払い処理が月末に集中して、業務がオーバーフローしていたために、どうしても月末に締めることができていませんでした。いきおい、経営陣に素早く数字をあげることもできていません。

なぜ月次決算処理が遅れてしまうのでしょうか。

その理由は、さきほども述べたように、そもそもコストを確定するための業者からの請求書入手が、月末に集中していたからです。

本来、業者への支払いは、相手からの請求書が到着するのを待つのではなく、納品書ベースで、各現場で仕入計上してしまえばよいのです。

そうすればタイムリーにコストが把握可能ですが、長年の慣習もありますし、現状では支払い申請書の入力漏れも多く、企業成熟度がもう少し向上するまでは難しいと考えました。

また、工賃については売上に応じて業者と交渉することも多く、この交渉が長引くことが、請求書が月末に集中する最も大きな理由となっていたようです。

受注先との価格交渉の問題もあります。受注時点では金額が曖昧なまま工事が開始されるため、工事完了後に実績をベースにお互いが金額確定の交渉をしているのが実態です。これは取引先の体質やK社担当者の意識の問題もあるでしょうが、業界としては一般的な慣習とみるのが自然であるようです。

ITコンサルタントのコメント(2022年11月4日)

データが入力されない理由として、関係者の協力が得られないことが要因となることがあり、本コンテンツがその一例といえるでしょう。

システムを入れ替える場合には必ず目的があると思いますが、その目的に沿って恩恵を受けるユーザーを中心にシステム入替を進めるだけでは効果が限定的となってしまいます。
効果を最大限に得るためには、システム入替により恩恵を受けるユーザーだけの協力ではなく、直接恩恵を受けない関係者の協力も必須です。
具体的にいうと、本コンテンツにも出てきた「外部の関係者(取引先)」や「内部の関係者(社内の他部署)」です。

どちらも直接的な恩恵を受けるわけではない(むしろ不利益を被ることが多い)ので、ただでは協力してくれないという前提で考えるべきでしょう。
協力を得るために、以下のような恩恵を提示するべきです。

■外部の関係者
こちらが提示する条件で対応してくれた取引先には、一定期間インセンティブ(取引額の○%割引等)を与える。
もしくは、従来の対応を行う場合は別途料金を徴収するというやり方もあります。
(恩恵とは逆の考えとなってしまいますが…。)

ここで注意したいのが「従来のやり方は今後一切受け付けません」とは言わないことです。
コンテンツにもありましたが業界の慣習的に難しい場合や、PC操作に不慣れな社員が多い会社もあるため、必ず選択肢として従来のやり方は残すことをお勧めします。

■社内の他部署
システム入替の結果、日常業務の増加などによりシステム入替により不利益を被る部署には以下2点のフォローが必要です。
・トップが全社最適やボトルネックの解消等、優先したいことを伝えること
・そのうえで不利益を被る部署には、ヒト・モノ・カネによるフォローを行うこと
(具体的には、増員、処理の早いPCの配布、一時的な報酬の支給、など)

無条件に業務量が増えるというのは現場の人間からする理不尽であり、積極的に協力する気は起きないでしょう。
「目的の説明」と「フォロー」をセットで行い、納得と協力を得ることが重要です。

昨今は戦争やコロナ禍など外部情勢の影響で、経営環境が1か月前と大きく異なることが見受けられます。
そんな中で経営判断を行うためには、正確なデータが素早く入手できることが必須です。
そのために、多くの経営者がシステムの導入を検討していることと思いますが、直接恩恵を受けるユーザーだけでなく、取引先やその他の社員も巻き込んで導入を進められることをお勧めします。


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