そもそも選択されたパッケージ・システムが間違っている

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2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。

コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。


P.158~

第4章
「To Beモデル」のシステム構築&改修で、業務効率・収益力を向上させる

そもそも選択されたパッケージ・システムが間違っている

監査法人が導入を進めた財務会計システムは、そもそも一般企業向けの「一般会計」用のパッケージ・システムであり、「建設業会計」に対応した機能を持っていませんでした。

あまり知られていませんが、ひとくちに「会計システム」と言っても、業種や業態に合わせたさまざまなパッケージがあります。

建設業の場合は、受注から納品・請求までの期間(サイト)が長いことや、数多くの業者を使うことなど、他の業界とは異なる特性があるため、建設業に特化した会計システムを使うのが一般的です。

しかし、なぜか、当初に新システム導入を担当した監査法人は、一般会計用の会計システムを選択していました。そのため、次のような欠点が目立って、使いにくかったといいます。

 

1.工事原価管理機能(工事台帳作成機能)がない

2.業者管理(支払い管理)機能がない

3.完成工事にかかる振替仕訳自動作成機能がない

 

加えて、債権の管理機能もないため、それを補うための機能が「統合情報システム」という名目で多額の費用をかけて開発されました。

このため、オリジナル開発につきもののバグによる障害が多発することになり、本来であれば不要な障害対応の労力と必要以上の開発費がK社に強いられることになりました。

これは、当初から、監査法人の推奨する会計システムありきでシステム構築が進められてきたことが最大の原因であると考えられます。あるいは、もしかすると「建設業会計」ソフトウェアの存在を知らなかったのかもしれません。

そもそも、K社は建設業の中でも比較的、小さな会社であり、小規模の工事を数多く請け負っていました。そのため、ときどき受注する大規模工事(全体の約21%)の案件で、全社の86%にあたる売上を上げています。

これは、一般的に言われる「8対2のルール」(パレートの法則)にも適合しています。「8対2のルール」とは、会社の売上の8割は2割の商品、あるいは2割の社員が上げていると言われるものです。

逆に言えば、K社の場合は、金額が50万円以下の小規模の案件の件数が全体の約80%(1万1548件)を占めているのにもかかわらず、それらによる売上金額は全体の14%(約15 億円)にしかなっていないことを示します。

このとき、全体の14%の売上計上のために、約1万件以上もの売上処理について、見積、受注、支払申請、売上の手順に沿って入力し、金額変更の場合は内部的な追加処理を強いることは、経営効率の観点から見て、はたして意味があるのかどうかはなはだ疑問です。

このような業務効率の問題についても、システム導入を担当する監査法人は考えを巡らせるべきですが、それを行った形跡は見られませんでした。新システムを提案した業者の「怠慢」と言っていいでしょう

ITコンサルタントのコメント(2022年11月15日)

当事例で示しているのはパッケージ選定の重要性です。

監査法人の推奨した会計システムには業種・業界特有の必要機能が含まれていないため、大規模なカスタマイズが発生しました。それが要因となり、障害を起こしやすいシステムとなってしまいました。

このように重要な機能が含まれないパッケージ選定に至った理由は何でしょうか?原因の 1つとして、本文にも記載があるように「監査法人の推奨する会計システムありき」でプロジェクトが進められたことが考えられます。また、発注者側も監査法人から推奨されたシステムを妄信して、自社業務をパッケージ仕様に合わせればよいと考えていたのではないでしょうか。

そもそも、システムとは事業活動を行ううえで必要な業務を自動化させる道具です。そして、その業務は業種や業界、企業によって異なります。そのため、パッケージ選定時点で自社業務が新システムでどの程度実現できるのかを見定める必要があります。自社業務とシステムとの適合性を確認せずに構築を進めることは、事業活動を停滞させることにほかならないです。

適合性を確認するためには、自社業務の把握とパッケージ仕様とのFIT&GAP分析を行います。当然ながら、業務を網羅的に把握できていない場合やシステム化できない業務を洗い出せていない場合は適合性を正確に評価することはできません。そのため、システムの発注者側と構築者側の双方が吟味する必要があります。今回の事例では、監査法人に不備がありましたが、発注者側にも監査法人に依存していたことに落ち度があったのではないでしょうか。パッケージシステムは誰かに推奨されたから選ぶのではなく、自社業務の適合性を確認したうえで選定をしましょう。


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