企業にはITシステムの知識と経験を持った人材がいない

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2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。

コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。


P.96~

第2章 場当たり的なシステム改修は、お金と業務の「ムダ」しか生み出さない

企業にはITシステムの知識と経験を持った人材がいない

中堅中小のユーザー企業がITシステムを導入するにあたって、最も頭の痛い問題が「専門家の不在」です。IT業界以外の事業会社のほとんどには、ITに通じた専門家がいません。そのため、ITシステムの導入にあたっても、SIerやシステム・ベンダーの言いなりになってしまいがちです。

「そんなことはない。うちにはちゃんとIT業界からスカウトしたIT担当者がいる」と反論される方もいるかもしれません。

では、その方は経営者から全幅の信頼を受けているでしょうか。経営者は、IT担当者に十分な裁量権を与えて、何千万円もするシステムの構築を任せているでしょうか。

残念ながらそのような例は多くありません。ほとんどの中小企業において、ITシステム担当者は、それほど高い地位を与えられていません。それは、経営者のITに対する意識を反映したものです。

ITシステムは、効果的に使えば、業務効率を10%でも20%でも向上させられる「道具」です。業務効率が会社全体で20%上がれば、単純に考えて、業績が20%アップしてもおかしくないはずです。

それだけ重要な役割を担っているITシステムに対して、中小企業の経営者は多少、理解が足りないような気がします。その結果が、ITに対する少ない予算と人件費になっていはしないでしょうか。

とはいえ、経営者の気持ちもわからないではありません。直接的に売上を生み出すわけではないITシステムに、多額の予算を使う気になれないのはしょうがありません。また、中小企業において、ITシステム専任の担当者をおくことができないのは、人事や経理や総務ですらも、一つひとつが専任ではなく、兼務状態になっていることからも無理はありません。

そもそも、中小企業がITに力を入れて、業務知識のある腕の良い人を雇おうとしても、市場にいい人材があまりいません。

理由の第一は、ITは日進月歩で進化するものだからです。それまでIT業界の最前線で働いていた人でも、業界から離れてしばらく経つと、最先端の知識にはついていけなくなりがちになります。皆さんの会社にも、元SEとか元IT業界といった人がいるかと思いますが、皮肉なことに、その人が新しい会社の業務に慣れれば慣れるほど、IT知識から遠ざかってしまうものです。

理由の第二は、ITやプログラム言語に通じれば通じるほど、人間同士のコミュニケーションにうとくなってしまう傾向があることです。

当たり前ですが、コンピュータとは、徹頭徹尾、論理的に動くものです。経営コンサルタントの本を読むと、「論理的思考(ロジカルシンキング)が大切」などと書かれていますが、ロジカルシンキングであれば、そこらへんの経営コンサルタントよりもプログラマーのほうが上なのではないかという気もします。

なにしろ、彼らは四六時中コンピュータと会話しているわけです。そして、コンピュータに指示命令を与えるためのプログラミング言語は、徹頭徹尾、論理的な言語です。論理的にミスがあるとプログラムが動かなくなります。

そのせいとばかりは言えませんが、プログラミングに精通すればするほど、SEは論理的になりがちですし、逆に、人間の「非論理性」に対しては理解の度合いが低くなります。ですから、ユーザー企業がITの専門家を雇おうとしてもなかなか難しいのです。

さきほど、ユーザー企業がシステム・ベンダーに感じる不満を紹介しましたが、システム・ベンダーの側もまた、ユーザー企業に不満を抱いている実態があります。

図表7は、『日経ITプロフェッショナル』(現『日経SYSTEMS』)誌が調査したものです。

「利用者の間で意見調整ができておらず、求めてくる要求が大きく異なる」(75・8%)をはじめとして「利用者自身が何をしたいのか分かっていない」(59・6%)、「利用者の要求がめまぐるしく変わる」(56・4%)など、辛辣な意見が並んでいます。

お互いのコミュニケーションがすれ違うことから、どうしても、ITシステムの開発企業とユーザー企業との距離は開きがちになってしまいます。

そこで、現状では私たちシステムコンサルタントが、両者の間をつなぐ架け橋になっているのです。

図表7 システム・ベンダーがユーザーに抱く不満

ITコンサルタントのコメント(2022年05月30日)

時代が移り変わり、DXが叫ばれる昨今はITシステムに関心がない経営者は少なくなってきました。また、「企業にはITシステムの知識と経験を持った人材がいない」という事実も少しずつ変化してきています。DXへの取り組みが適切であれば、中小企業の経営者が求めるIT専門家が育つ環境ができつつあると感じます。

とはいえ、依然としてユーザー企業とベンダーの間の溝はまだまだあります。解消にはユーザー企業のシステム要求・要望の可視化への努力と、ベンダー側のその要求・要望の本質を探りそれに沿った適切な機能の提案・実装へたゆまぬ尽力が一番の近道です。お互いに不満を持つ関係ではなく、いい関係を築く努力を意識することも必要です。


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