在庫をきちんと管理できずに、損失を生み出していたシステム

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2015年に出版した
『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』幻冬舎 (2015/9/18) より
書籍内のコンテンツをタイトルごとに公開いたします。

コンテンツの最後に、コンサルタントのコメントを追加しておりますので、合わせてご覧ください。


P.189~

第4章
「To Beモデル」のシステム構築&改修で、業務効率・収益力を向上させる

事例2:在庫をきちんと管理できずに、損失を生み出していたシステム

次に紹介するのは、年商84億円、社員数120名で、カバンの製造・卸およびブランド品の輸入販売を手がけるT社です。

T社は、とある地方都市に本拠をかまえる老舗の会社で、創業社長から二代目に経営権が譲渡されたのをきっかけに、老朽化した販売管理システムの再構築を行おうと考えました。

というのも、それまでの販売管理システムに入力された在庫の数量は、なぜかまったく当てにならず、営業の担当者は、システムがあるのにもかかわらず、いちいち倉庫に行って実在庫を確認するなど、手間がかかっていたからです。

創業の苦労を経験しておらず、また生え抜きの幹部社員とも事情を通じていない二代目社長としては、経営のよすがとして、せめてしっかりとした販売や売上の数字がほしかったのですが、現行システムではとうてい望めない状況でした。

しかし、T社には一つだけ問題がありました。当時は、それほどの利益が上がっていなかったために、キャッシュが潤沢ではなく、新しくシステムを導入するだけの余裕がなかったのです。

そこで、私どもの会社のコンサルティングでは、業務効率を向上させるシステムを企画するとともに、在庫を削減することで借入金の金利負担を減らし、システム投資の原資を捻出する提案も合わせて行うことにしました。

T社を訪問したときに、目についたのはそこら中に置かれた在庫の段ボールの山でした。
卸業の特性上、ある程度の在庫を抱えることは必要ですが、あまりにもばらばらに置かれているため、管理が行き届いているのかどうかも疑問でした。

また、在庫が過剰にあることから、維持費用がかかり、キャッシュフローを圧迫し、結果として経営を圧迫しているのではないかという気もしました。システム導入費用が不足しているとのことでしたが、その原因も過剰在庫に求められるかもしれません。

そこで決算書を拝見させてもらったところ、月次決算が翌月末まで出来上がらないことがわかりました。1カ月遅れで月次決算報告を出されても、迅速な経営判断ができません。ここにもT社の問題が隠れているような気がします。

そこで私たちはT社のシステム(仕組み)改革目標として以下の二つを掲げました。

(1) 在庫の削減(半減が目標)

そもそもアパレル・ファッション業界の商品は、同じデザインであっても、色や素材が異なったり、サイズが異なったりで多種の商品が存在しています。

すべての商品を切らさないように持とうとすると、どうしても在庫が増えてしまうのは当然ですが、それにしてもT社が抱える在庫は多すぎでした。

T社の在庫は、業界平均の約2倍ありました。そして、在庫分の仕入れ資金を確保するために多額の借入が行われていました。

前期末の時点において、会社が支払っている金利が年5400万円ほど計上されていて、このうち2分の1が在庫の仕入れ資金を確保するためのものだと考えられました。

在庫を半分にすると借入を4分の1減らすことができ、金利の支払いを年間で1350万円以上削減できます。システムの稼働期間を5年間と考えると、6500万円程度のシステム化投資への原資が確保できることになります。

言い換えれば、在庫を最低でも半減させないとシステムへの投資に見合った利益が確保できません。

(2) 月次決算の早期化(翌月10日が目標)

T社では、仕入れ先請求書による支払いの後、仕入れが確定し、その後に月次決算が行われていました。しかし、仕入れ先から請求書が届くのは月末であり、その後の処理にも時間がかかり、経営陣に月次決算報告が行われるのは翌月末となっていました。

月次決算を経営に役立てるためには、最低でも翌月10日までに月次決算を行い、対策をいちはやく行えるようにする必要がありました。

月次決算を早期化することにより、タイムリーな意思決定、本決算の的確な予測、金融機関への迅速な経営状況の説明などが可能になります。

ITコンサルタントのコメント(2022年12月16日)

このように、元々のシステムが上手く機能しておらず、それが会社の本来必要な業務や意思決定に活用できていないケースがあります。
このような場合、ただシステムを新しいものに入れ替えても、高額なコストがかかるばかりで、問題の根本解決には至らないことがあります。
単純にシステム刷新を行うのではなく、まずは業務/システムの現状調査、問題抽出を行い、そこからTOBEモデル(あるべき姿)を導き出す必要があります。

上記の事例においても、
 ・在庫の削減(半減が目標)
 ・月次決算の早期化(翌月10日が目標)
という明確なあるべき姿を描けたからこそ、それを達成するための効果的なシステム刷新を検討できるわけです。

世の中には、コンサルティングを掲げながらも、新システム導入を主目的としたITコンサルティング会社が多いことも事実です。
もしITコンサルティング会社に対応を依頼する場合は、どのようなITコンサルティング会社であるか、十分な見極めが必要です。


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