IT企画人材の自社育成がシステム開発と外注管理を左右する理由

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関根 真悟
システムコンサルタント関根 真悟

システムコンサルタント関根 真悟

中小企業の支援に関わる業務に関心があり、前職の経験を活かしシステム面から中小企業の支援を行うために、青山システムコンサルティングに入社。 前職はネットワークの設計・構築を行う部署で自身の持つの知見を活かし、DC移転プロジェクトやネットワーク機器更改プロジェクトの成功に貢献。 現在は、経営者と作業者の視点を意識した第三者の目線でコンサルティングサービスを提供している。

DX(デジタルトランスフォーメーション)や業務効率化を目指し、システム開発に取り組む企業が増えています。しかし、ベンダーに開発を依頼したものの、「思ったようなシステムにならない」「外注費が膨らみ続ける」「進捗が見えない」といったトラブルに直面するケースは後を絶ちません。

その原因の多くは、実はベンダー側ではなく、発注企業の「IT企画人材」の不在にあります。本記事では、システム開発や外注管理の成否を握るIT企画人材の役割や、人材不足によって生じるリスク、解決策である自社育成の進め方について解説します。

IT企画人材とは何か

IT企画人材とは、経営戦略や経営課題を理解し、AIやIoTなどのあらゆる技術を活用して経営戦略の推進や経営課題の解決に貢献できる人材を指します。

一方、システム開発や外注管理においては、経営者とシステム利用者と開発ベンダーの3者の間に立ってプロジェクトを企画/推進できる人材であったり、プロジェクトを推進する司令塔や翻訳者の役割を果たす人材のことを指します。

本記事では、後者のシステム開発や外注管理にフォーカスしたIT企画人材について解説します。

IT企画人材に求められる役割

システム開発や外注管理におけるIT企画人材の役割の具体例として、以下の4点を解説します。

1.企画プロセスの実施

企画プロセスは「なぜシステムを導入するのか(背景・目的)」と「システム導入によってどのような成果を得たいのか(ゴール)」を明確にし、関係者に合意を得るプロセスです。具体的には、投資対効果(ROI)の試算や、プロジェクトの予算規模、大まかなスケジュールの策定を行います。

このプロセスが抜け落ちると「システムを導入すること」が目的になってしまい、費用やリソースをつぎ込んだにもかかわらず経営課題が解決されない、という事態になりかねません。

以下のコラムで詳細に解説していますので、こちらも併せてご覧ください。


2.業務の整理と要件化

ベンダーに依頼する前に、現状の業務フローや抱えている課題を整理する必要があります。それらを論理的に整理してドキュメント化することが1つ目の役割です。

現場担当者の「なんとなく使いにくい」という感覚的な声を「どの工程にボトルネックがあり、どう解消すべきか」という具体的な要件へと変換します。これができないとベンダーへ正しく要件が伝わりません。

3.ベンダーからの提案に対する確認と判断

ベンダーから提案された技術構成や見積もり、スケジュールに対して「自社の業務にとって適切か」「費用対効果は見合うか」を判断することが2つ目の役割です。

ベンダーの提案を鵜呑みにせず、取捨選択を行うことが求められます。

4.プロジェクトの推進

システム開発を「ベンダーの仕事」と捉えず、「自社の経営課題解決」としてプロジェクトを推進することが3つ目の役割です。

予期せぬトラブルや仕様変更が必要になった際、現場の運用とシステムの制約 / QCD(※)を天秤にかけ、最終的な着地点を決定する責任を持ちます。
 ※QCD:システム開発における品質(Quality)、費用(Cost)、納期(Delivery)のこと。

 

システム開発や外注管理において、IT企画人材は「導入するシステムは自社の経営戦略の達成や経営課題解消に貢献するためのシステムか」という視点を常に持ち続けることが求められます。

IT企画人材が不足している企業の共通点

IT企画人材が不足している企業はベンダーへの「丸投げ開発」をしていることが多いです。経営者がシステム投資やIT人材の育成の重要性を理解せず、「プロに任せれば良いものを作ってくれるだろう」と考えた結果、ベンダーへ開発を丸投げしてしまうのです。丸投げ開発のリスクとして、経営者やユーザーが求めるシステムとはかけ離れたシステムになるリスクがあります。

丸投げ開発については以下のコラムでも解説してますのでご参照ください。


IT企画人材がいないまま進むシステム開発の問題点

IT企画人材がいない状態でプロジェクトを進めると、システム開発の成功指標であるQCDのすべてに深刻な悪影響が出ます。

1.要件定義が形だけになりやすい(Q:品質が低くなる)

ここでいうシステムの品質とは、ユーザーの要望を満たし使いやすいシステムになっているかどうか、を示す指標です。品質が高いシステムはユーザーの要件が満たされており使いやすいシステムで、逆に品質の低いシステムは要望が網羅されておらず使いにくいシステムのことです。

システム開発において、システム品質の基礎になるのが「要件定義」です。 要件の抜け漏れはシステム品質の低下に直結します。

しかし、社内にIT企画人材がおらず業務フローなどをしっかり作成しないままプロジェクトを開始すると、ベンダーへ伝える要望が「現場の思いつき」の羅列になりがちで、要件抜け漏れの発生や、全体最適が考えられていない要件になってしまいます。

ベンダーはそれをそのまま仕様に落とし込むか、あるいは一般的なパッケージ機能を当てはめる提案しかできません。その結果、「機能としては動くが実際の業務フローに合わない」「現場から使いにくいという声が多発する」といった、品質の低いシステムが出来上がってしまうリスクがあります。

2.判断や意思決定が遅れる(D:納期遅れが発生する)

開発プロジェクトは「A案とB案どちらにするか」「この課題をどう解決するか」という選択の連続です。 IT企画人材がいれば、全社への業務影響 / 技術的難易度 / 費用等を考慮して判断を下せます。IT企画人材では決められない内容でも、経営者がすぐ判断できるような形で整理することができます。

しかし、IT企画人材が不在の場合は、社内確認や会議に時間を費やし、意思決定に時間がかかってしまうリスクがあります。発注側の判断待ちの時間がスケジュールの遅延を招く原因となり、当初予定していたシステム稼働日に間に合わなくなるリスクがあります。

3.追加開発で予算が膨らむ(C:予算オーバー)

「1.要件定義が形だけになりやすい」に関連しますが、要件定義が不十分なままプロジェクトが進行すると、開発中や稼働直前になって「必要な機能が足りない」「想定していた動きと違う」といった事態が多発します。システム開発における後工程での修正 / 要件追加は、前工程で行うよりも大きな追加費用になってしまいます。

また、IT企画人材がいないことで、修正や要件追加が判明した際に、発注側の問題だったのか、ベンダー側の問題だったのかの判断ができず、ベンダーから言われるがまま費用を支払うことになってしまいます。さらに、追加見積もりに対して価格が適切なのか判断もできないため、より費用が大きくなってしまうリスクがあります。

外注管理が難しくなる本当の理由

「外注管理がうまくいかない」と悩むIT担当者は多いですが、その本質は管理ツールの不備や連絡頻度の問題ではありません。

外注管理は単なる「管理スキル」ではない

外注管理とは、単にスケジュールどおりに進んでいるかを確認することではありません。

ベンダーから上がってくる設計書や成果物が、「自社の要件 / QCD を満たしているか」を評価・検収することが外注管理の本質です。この評価には、自社の経営課題の認識 / 業務理解 / IT基礎知識が必須であり、システム担当者や業務チームリーダーでは正しい評価を行うのは難しいため、IT企画人材が必要なのです。

IT企画人材が不在だと起こりやすい外注管理の課題

IT企画人材が不在の場合、外注管理において以下のような課題がよく起こります。

  • 報告や成果物の評価が正しくできない
    ベンダーから「予定どおり進捗しています」という報告を受けたが実際は遅延が発生していた、というケースは皆様も耳にしたことがあると思います。報告に対する裏どりをしないと遅延のリスクになります。成果物についても同様で、自社の要件を満たしていることを確認しないと後々追加費用が発生してしまいます。
  • ベンダーの言いなりになる
    ベンダーからの「技術的に難しい」という説明に対して、代替案を出させたり妥協点を探ったりすることができず、条件を鵜呑みにせざるを得ない状況になってしまいます。

  • 責任のなすりつけ合い
    IT企画人材が不在で要件が曖昧なまま発注してしまうと、システムに不備があった際に、要件どおりに作ったというベンダーと、要件の意図を汲んでくれなかったというユーザーの水掛け論がおこり、スケジュールやシステムの品質に影響を及ぼします。

IT企画人材の自社育成が必要とされる理由

こうした事態を防ぐためには、社内にIT企画人材を持つことが不可欠です。「外部から採用すればいいじゃないか」と思われる方もいるかもしれませんが、自社で育成することを推奨します。

外部任せでは限界がある理由

外部の専門家にIT企画人材の役割を代行してもらうことも一つの手段ですが、あくまで一時的な応急処置に過ぎません。システムは導入して終わりではなく、業務や外部環境の変化に応じてシステムも変わっていかなければなりません。 

システムを変化させ続けるためには、外部環境の把握だけではなく、内部環境である経営戦略や課題、高度な業務理解が必須であり、それらを熟知しているのは、外部の人間ではなく自社の社員です。また、外部任せにし続けると、社内にノウハウが蓄積されず外部に依存し続けることになってしまいます。

採用ではなく「育成」が現実的な選択肢である背景

「それならIT企画人材を採用すればいい」と考えるかもしれませんが、IT企画人材は市場価値が非常に高く、採用難易度が非常に高いのが実情です。

 一方で、自社の業務を熟知している社員であれば、「経営的な視点」と「ITの視点」を加えることで強力なIT企画人材になり得ます。「外部のIT企画人材を呼んで自社業務を教える」よりも「自社業務の専門家にIT企画人材になってもらう」方がコストが相対的に低い上に自社に貢献できる確率は高いのです。

弊社の著書「勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書」にも下記のように記載しています。

5章第2節 IT人材不足は「発見」と「育成」で解消する
(中略)
「社内にいなければアウトソーシングすればいい」というのは、社内業務の効率化のためであって、ITについてまったく知らないのにアウトソーシングするのは「活用」ではなくて「放棄」です。
アウトソーサーを使いこなすだけの知識と経験のある人が社内にいればいいのですが、それもなしに外部に丸投げするのは意味がありません。
(中略)
IT人材がただでさえ不足しているなかで、企画人材の採用・育成は急務となっています。能力ある人を外部から採用するのは現実的ではなく、やはり一定の時間をかけて社内で育成するしかありません。

IT企画人材育成の最初の一歩 INPUTの考え方

では、実際にどのようにIT企画人材の育成を進めればよいのでしょうか。まずは知識のインプットについてです。

IT企画人材に必要な基礎知識とは

IT企画人材に、プログラマーのような高度で専門的なコーディング知識は不要です。あるに越したことはありませんが、IT企画人材に求める知識は「ITと経営の初歩的かつ網羅的な基礎知識」です。

具体的には、「クラウドとはなにか、何ができるのか」「API連携とは何か」「最近のセキュリティ動向」といった、選択肢を知るための知識です。これらを知っていることで、ベンダーからの提案に対して、自社の経営戦略や経営課題と照らし合わせて、自社にとって適切な提案か否か、判断することができます。

学習の入り口として有効な考え方

最初は、IT関連のニュースサイトや書籍から、業界のトレンドや基本的な用語をインプットすることから始めるとよいでしょう。もし余裕があれば、独立行政法人情報処理機構(IPA)が実施する「ITパスポート試験」の受験をお勧めします。

ITパスポート試験は、IT・システムに関する技術や開発・導入手法の概要に関する知識をはじめ、経営全般の知識、ITの知識、プロジェクトマネジメントの知識など幅広い分野の総合的知識を問う、国家試験の1つです。試験に合格するだけのレベルに達する頃には「ITと経営の初歩的かつ網羅的な基礎知識」が身についているはずです。
(資格試験ではありますが、合格することが目的ではなく、知識を身に着けることが目的であることに注意してください。)

IT企画人材として重要なのは「自分で手を動かしてシステムを作る」ことではなく、「どのような技術を使えば自社の課題が解決できそうか」という引き出しを増やすことです。

IT企画人材育成のもう一つの軸 OUTPUTの重要性

知識のインプットだけではIT企画人材に求める能力として不十分です。インプットも重要ですが、IT企画人材にとって重要なのは、インプットした知識を実務に落とし込むアウトプットの能力です。

自社の業務を言語化できる

システム開発において、「現状の業務はどうなっているか(As-Is)」と「システム導入後の業務はどうなるべきか(To-Be)」を、わかりやすく業務フローとして整理しなければなりません。業務フローの抜け漏れは要件の抜け漏れに直結し、プロジェクトのQCDに悪影響を与えます。

この「自社業務の言語化・可視化」こそがIT企画人材に求められるアウトプットです。このアウトプットには、先述のIT / 経営の知識だけでなく、ロジカルシンキングや業務分析、資料作成などのスキルも必要になります。

外注管理につながる実践的なアウトプット

先述の<外注管理は単なる「管理スキル」ではない>に記載したとおり、外注管理とはベンダーから上がってくる設計書や成果物が、「自社の要件 / QCD を満たしているか」を評価・検収することです。この外注管理の能力を養うために有効なアウトプットは、業務フローや機能要件一覧、要件定義書を実際に作ることです。

これらのドキュメント作成プロセスを経験することで、ベンダーをコントロールするために必要な「自社の要件」や「QCDの基準」を明確に理解することができます。

自分で作成することで、ベンダーからの成果物が想定していたものと違っていた場合に「なんか違う」というあいまいな指摘ではなく、「要件一覧のNo○○を満たしていない」という具体的な指摘がスムーズに出てくるようになり、外注管理の精度が向上します。

自社育成だけでは難しい理由と外部支援の必要性

先述のとおり、IT企画人材の育成が重要ですが、社内リソースだけで完結させるのは容易ではありません。

実務と育成を同時に進める難しさ

多くの企業では、IT企画人材として育成対象となった社員は他の業務を兼任しています。

また、社内に指導できる先輩IT企画人材がいないケースがほとんどです。その状態でプロジェクトを進め、先述した業務フロー作成や要件一覧を作らせようとすると、担当者が疲弊してしまい、IT企画人材を育てるどころではなくなってしまいます。

外部支援を活用するという選択肢

ここで有効なのが、システムコンサルティング会社などの外部支援を「育成」の観点で活用することです。 単に作業を代行してもらうのではなく、「プロジェクトを一緒に進めながら、自社社員にノウハウを移転してもらう」といった形で依頼することをおすすめします。

そうすることで、他業務を兼務しているIT企画人材候補の業務負荷を減らしつつ、高品質な教育を受けることができるようになりますので、担当者が効率よくIT企画人材のノウハウを学ぶことができるのです。

IT企画人材の自社育成がシステム開発と外注管理を左右する

システム開発や外注管理で直面する課題は、ベンダーの問題である以前に、発注側にIT企画人材がいないことに起因することが少なくありません。 IT企画人材は一朝一夕には育ちませんが、自社の業務をよく知るIT企画人材を育成することは、将来的な企業の競争力に直結します。

まずは社内にいる社員からIT企画人材候補を探してみましょう。弊社の著書「勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書」にある以下の言葉が、IT企画人材候補を探すヒントになるかもしれません。

1章第7節 DXで顧客満足度は向上する
(中略)
DXの責任者になれるのはIT企画人材であり、単なるSEでは担うことはできません。
中堅中小企業にこうした人材がすでにいることはまれでしょう。外部から連れてくるのも難しい。一番は社内の人材をピックアップして育てることです。
「うちにはそんな人材がいるわけない」と思い込んでいる経営者も多いようですが、社内公募してみると、意外にシステム好きな人間が、特に転職組の中にいることがあります。
(中略)

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2026年02月06日 (金)

青山システムコンサルティング株式会社

関根 真悟