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 皆さんが病院や診療所にいくと、医師がパソコンに向かって操作することを目にすることが多くなりました。以前は、なにやら凡人の私には読めない、ドイツ語や英語でカルテを記載していましたが、今や医師も診察内容をパソコンに日本語でカルテ情報を入力する時代がきました。一方、このIT化の時代にも関らず、多くの医療施設が昔のように紙に診療内容を書いています。
なぜ、同じ医療機関にも関らず、電子カルテが導入されている病院や診療所と紙カルテで運用している医療機関があるのでしょう。

診療を受ける側からみると病院も診療所も同じようにみえますが、実は医療機関の規模により、根本的に全くなるシステムが使われ、導入に必要なコストを理解することにより普及しない実情がみえてきます。

病院と診療所の電子カルテシステムはその組織構成の違いのため、大幅に機能が異なります。病院は、薬剤部門や検査部門、放射線部門、看護部門、手術部門、給食部門、事務部門等の組織で構成されます。各部門は、電子カルテに入力された医師の指示やカルテの記載内容を元に、診断支援や治療のための業務を実施します。一方、診療所は医師と数人の看護師・事務員から成り立ち、ほとんどの業務が診察室内で終了しますから、指示する必要がありません。診察室内で実施したことを記録し、カルテの記載を行なうだけの機能に限定されます。

病院の電子カルテは、
・ 医師が各部門に指示を出す機能(一般的にオーダ機能といいます)
・ 医師が患者の状態を記録する機能(一般的にカルテ記載機能といいます)
・ 各部門が医師指示を受け、業務を実施するためのシステム
検体検査システム・放射線画像システム(RIS/PACS)
看護支援システム・薬剤部門システム・医事会計システム 等など
20~30種類ぐらいのシステムがあります。
が複雑に絡み合い、構成されます。まさにスパゲッティーのような状態になります。
一方、診療所の電子カルテは
・ 医師が患者の状態を記録する機能
・ 処方の情報・血液や尿等の検査依頼情報(一般的には外注検査)の登録機能
・ 診察室内で実施した、簡単な検査や処置の登録機能
・ 会計を計算する医事会計機能
にほぼ集約されます。

この複雑さの違いから、病院と診療所では、システムにかかるコストが全く異なります。病院の電子カルテを構築するためには、各部門のシステムをしっかり準備しないといけないため、どんなに小さい病院でも数億必要です。しかし、診療所のシステムは内科の診療所であれば、一千万以下で十分構築できるのです。

そして、電子カルテを導入しているからといって、施設は、診療報酬上、ほとんど優遇はされません。要は電子カルテを導入しても収入が上がる保障はないのです。一般企業と異なって、病院のサービス価格は病院自身では(一部を除き)決められません。システムコストを価格に転嫁ができないのです。

現場では、大病院と診療所から電子カルテの普及が始まりました。大病院は収入が大きい分、電子カルテのコストの吸収が可能でした。診療所は、外注検査会社が、自社への検査の受注のため、ほぼ無料で診療所に電子カルテを売り込んだのです。

しかし、その中間に位置する中小病院には、いまひとつ電子カルテが普及しません。さまざま原因が医療業界では言われていますが、明確なコストメリットが見出せないことが大きな原因のひとつと考えます。

20年以上前にほとんどの病院が医事会計システムを導入し、中小企業規模の売上高にも関らず、最先端の高価なコンピュータシステムが事務部門に導入されました。その際には、請求事務処理作業の正確性の向上と効率化と人件費ダウンが一度に実現されました。しかし、電子カルテシステムは、経済性の視点からはメリットがいまだ明確に打ち出せていません。さらなる普及には何かしらの動機付けが必要で、補助金や助成金のばら撒きではない国のリーダーシップが重要です。

例えば、先日閣議決定された「共通番号制度」を軸に、以前検討された「電子私書箱」のような一元化されたポータルサービスが個人へ提供されれば、巨大な公的システムが構築されるでしょう。さまざまなリスクがありますが、そのシステムに医療・介護・年金等の公的データを蓄積させれば、社会保障の充実に一役買うことができるでしょう。(既に年金関係の情報は個別にサービスを開始していますね。)

ビックデータ時代と到来とともに、各医療施設が持つ膨大な治療データを社会保障サービスに有効利用できれば、国民一人ひとりが利益(安心)を享受でき、さらに充実した社会保障環境が構築できるのではないでしょうか。

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2011年12月15日 (木)

青山システムコンサルティング株式会社

嶋田秀光