準委任契約でITベンダーが負う義務とは

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 企業がシステム開発をITベンダーへ委託する際、契約を「準委任契約」か「請負契約」の何れかの形態で締結することが大半です。
 請負契約ではITベンダーは仕事の完成義務を負う事が良く知られています。一方で、準委任契約ではどのような義務を負うか意識されることが少ないように思えます。
 契約上の義務をユーザー企業とITベンダーの双方が理解していないと、後々になってトラブルが発生する可能性が高くなるので注意が必要です。

 今回は、準委任契約でどのような義務を負うのかを事例を交えて説明します。

・準委任契約
ITベンダーは委任業務を処理し報告書を提出する。完成物が明確になっていないユーザー企業が主体となる業務で採用される。(要件定義や外部設計等)

・請負契約
ITベンダーは仕事の完成義務を負う。完成物が明確なITベンダー主体の業務で採用される。(内部設計、プログラム開発等)

ユーザー企業とITベンダーが要件定義作業でもめた事例を以下に挙げます。もめた理由はどこにあるのでしょうか。

【背景】
製造業A社は、生産管理システムリプレースのためITベンダーB社に開発を委託する計画を立てた。始めにA社は要件定義支援をB社へ委託するため、契約期間3ヵ月の準委任契約を締結した。

・1ヵ月経過
順調に要件ヒアリングが進んでいたが、サブシステムのXシステムだけはA社内での要件検討が難航し、B社へ要件提示ができずにいた。
・1.5ヵ月経過
A社はこのままXシステムの要件検討を進めると要件定義の契約期間内に収まらないかもしれないと思い、B社にスケジュールや費用への影響を確認した。B社は後続作業である設計フェーズと並行で実施可能なため、全体スケジュールや費用への影響は無いと回答した。
・2ヵ月経過
その後、A社はXシステムの社内検討の進捗状況をB社に認識させるため、B社をA社内の要件検討会に数回出席させた。
・2.5ヵ月経過
Xシステムを除き、要件定義作業は予定通り完了した。
B社はXシステムの要件定義は当初の契約期間内に収まらないという理由から、要件定義支援1ヵ月の追加発注を要求した。

ここで以下の見解の違いから両社はもめることになった。
【A社の見解】
Xシステムの要件検討の遅延はまだ費用に影響しないと考えていた。今更追加発注を要求してくるのはおかしい。
【B社の見解】
A社が原因のスケジュール延長であれば当社に責任は無く、延長分の費用は支払われるのが当然である。

 今回の事例では、ITベンダーに「善管注意義務」の視点が欠けていると言えます。「善管注意義務」とは、民法第644条(※)に定められている善良な管理者の注意の義務の略で、以下の内容を意味します。

業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。注意義務を怠り、履行遅滞・不完全履行・履行不能などに至る場合は民法上過失があると見なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが可能となる。(kotobankより)

※民法 第644条の条文
 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

 準委任契約では、受託側に仕事の完成義務は無く定めた期間に作業を行えば良いのですが、上記の義務を果たしていることが前提です。つまり、労働力を費やすだけでなく、委託者の望む方向に行かない可能性を感じたら、プロフェッショナルとして一般的に期待されるレベルの注意をする必要があります。

 今回の事例では、A社が遅延の可能性のアラートを示しているのに関わらず、B社はプロジェクトへの影響を明確にせず、Xシステムの検討状況を静観しているだけでした。もしA社が期間延長による費用増を認識していたら、検討スピードを早め、遅延を最小限に抑える可能性は十分にありました。B社はA社の作業の期日管理をしっかり行い、期限超過の可能性を感じたら両社で対策を検討するように進めるべきでした。

 読者の中には、準委任契約である要件定義でITベンダーが上記のようなプロジェクトマネジメントと言える義務を負うのは、責任が重すぎると感じた方がいるのではないでしょうか?

 近年のITに関わる紛争では、ITベンダーは「プロジェクトマネジメント義務」を負うという判例があります。義務の要旨は以下のとおりです。

・契約書や提案書で提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進める。
・常に進捗状況を監視し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、適切に対処する
・ユーザーの作業も適切に管理し、システム開発の専門知識の無いユーザーがシステム開発作業を阻害する行為をしないように働きかける

 近年、ITベンダーは単なる作業提供だけでなく、プロフェッショナルとしてプロジェクトマネジメントを行うことをこれまでより更に強く求められる傾向にあります。

 請負契約と比較すると義務が緩い印象の準委任契約ですが、法律上の義務や判例等を見るとそうではないことが分かります。
 もし現在、準委任契約の業務か進行しているであれば、事例のようなトラブルを防ぐためにも、改めて契約上の義務を果たしているか振り返ってみてはいかがでしょうか。

2014年07月15日 (火)

青山システムコンサルティング株式会社

池田洋之