コラムカテゴリー:データ分析, 内部統制, 情報戦略/業務改革
記事の執筆
システムコンサルタント関根 真悟
中小企業の支援に関わる業務に関心があり、前職の経験を活かしシステム面から中小企業の支援を行うために、青山システムコンサルティングに入社。 前職はネットワークの設計・構築を行う部署で自身の持つの知見を活かし、DC移転プロジェクトやネットワーク機器更改プロジェクトの成功に貢献。 現在は、経営者と作業者の視点を意識した第三者の目線でコンサルティングサービスを提供している。
ビジネスを行う上で顧客管理をまったくしていない企業はないと思います。
しかし、顧客情報を正しく管理して経営に役立てることができている企業は、あまり多くないのではないでしょうか。
本記事では、システムコンサルタントの視点から、企業が継続的な成果を上げるための顧客管理について解説します。
顧客管理の基本的な意味
顧客管理は社名や担当者名、住所といった基本情報をデータベース化することだけを指すのではありません。
顧客管理はCRM(Customer Relationship Management)とも呼ばれており、日本語に訳すと「顧客との関係管理」となります。
つまり顧客管理とは、企業が顧客と良好な関係を構築するために、基本情報の管理だけではなく「顧客とのコンタクト履歴」「購買履歴」「興味関心」「問い合わせ内容」といった、顧客に関するあらゆる情報を一元的に管理・活用する仕組みのことを指します。
顧客管理の目的
顧客管理の目的は、「顧客と良好な関係を構築し、LTV(Life Time Value)を最大化すること」です。
LTVとは顧客生涯価値と呼ばれ、一人の顧客が取引開始から終了するまでの期間で企業にもたらす利益の総額を意味します。
LTVの計算式は下記のとおりです。
LTV=平均顧客単価(×収益率)×購買頻度×継続期間
すべての顧客に同じアプローチをするのではなく、顧客管理を通じて「誰が」「いつ」「何を」求めているのかを正確に把握することで、適切なタイミングで最適な提案が可能になります。
その結果、顧客の購買頻度の増加や最適な商品提案による単価増加、継続的な購入などにつながるため、顧客管理がLTVの向上に貢献するのです。
顧客管理の重要性
顧客管理の重要性は年々増加しています。その背景と多くの企業で見られる失敗について解説します。
ビジネス環境の変化と顧客データの価値
過去の「大量生産大量消費社会」と呼ばれていた時代はモノを作れば売れた時代でしたが、現在はそうではありません。
インターネットの普及により、顧客自ら情報収集や比較検討ができるようになった結果、現在は顧客のニーズが多様化・複雑化しています。
このような環境下では、過去の勘や経験だけに頼った営業活動は通用しにくくなっています。
事実やデータに基づいたアプローチを行うことが不可欠となっており、そのためには顧客情報が必須です。
今や顧客情報は、企業にとって「ヒト・モノ・カネ」に次ぐ重要な経営資産となってるのです。
よくある課題と失敗例
顧客管理に関して多くの企業で散見される失敗は、以下のような失敗です。
- 情報の属人化:顧客の情報が担当営業マンの頭の中にしかなく顧客情報が誰にも共有されない
- リストの形骸化:情報が更新されず顧客と連絡が取れない、既に解約した顧客に営業電話をしてしまいクレームになる
- データの分断:各部署で使用している顧客情報が統一されておらず、重複入力が発生したり、情報のすり合わせや部署間調整が必要になる
- 情報の過不足:形式的な入力しか行われず不必要な情報が入力されたり本当に必要な情報が入力されない
顧客管理がなされていないことで、適切な営業ができないことにより機会損失や業務の非効率化を招いてしまい、競合他社への流出(売上減)やクレーム(費用増)等に繋がってしまいます。
顧客管理を成功させるための2つのポイント
顧客管理システムを利用して成果を上げるためのポイントは以下の2つです。
① 目的を明確にする
目的を明確にすることは、「2. リストの形骸化」と「4. 情報の過不足」の失敗を回避するために有効です。
この情報は何のために入力するのか、という目的を定義して顧客管理を利用するすべての部署に共有しなければなりません。
目的を定義しないと何のために入力するか理解できず入力/更新されない事態になりかねません。また、どんな情報を入力すればよいのかも見えてきません。
例えば、営業業務の効率化を目指して顧客管理をする場合、目的と必要な情報は下記のように定義できるはずです。
目的:確度の高い顧客へ優先的にアプローチする
必要な情報例:予算 Budget / 決裁権の有無 Authority / 必要性 Needs / 導入時期 Timeframe (BANT情報)、最終接触日、決算時期、等
② 顧客情報の一意性/一貫性を確保する
顧客情報の一意性/一貫性を確保することは「1. 情報の属人化」と「3. データの分断」の失敗を回避するために有効です。
一意性はデータに重複がなく唯一(ユニーク)であることを意味し、一貫性は違う場所でも同じ意味を持っていることを意味します。
データの一意性と一貫性を確保することで、無駄な重複入力がなくなり、同じ情報をすべての部署で確認できるようになります。
顧客管理体制を見直すポイント
顧客管理を成功させるための2つのポイントを達成するために、以下2点の見直しをおすすめします。
活用を前提とした設計
「現場がどのような情報を求めているか」をしっかり検討し、現場のメリットとなるような設計にしましょう。
現場にメリットのない仕組みになってしまうと次第に入力されなくなり、形骸化してしまいます。
また、現場の入力負荷を減らすための工夫も必要です。
例えば、
特定のフォーマットで営業日報を作成すると顧客情報に自動的に連携される
といった仕組みができれば、今行っている業務の中で作成できるため、負荷を大きく増やすことなく情報を収集できます。
データ入力ルールの統一
データを活用するためには、入力ルールが統一され正しい情報が入力されることが必須です。
以下のような点は導入の際にルールを決めることをお勧めします。
- 全角 or 半角
- 正式名称 or 略称(例:会社名=株式会社 / ㈱ / 株式会社 は省略する 等)
- ランク(例:顧客の重要度=A;取引額○億以上、B;○千万以上 等)
入力ルールを決めても入力ミスする可能性がありますので、ミス防止のためシステムを活用した以下の対策も有効です。
- システムで全角 / 半角を判別し、半角は入力できないようにする
- 手入力ではなくプルダウンやラジオボタンで選択する
- 数字を入力すると自動で関連項目が入力される(例:取引額を入力すると自動でランクに反映される、等)
顧客情報を経営資産として活かすために
顧客管理は、一度システムを作って入力したら終わり、ではありません。
ビジネス環境の変化に合わせて、入力項目や運用ルール、出力するデータ等を常に見直さなければ、期待している効果を得ることができません。
正しく管理され活用されている顧客情報は、売上を生み出すための情報資産となり企業の成長に貢献します。
「データはあるが活用できていない」「部署間で情報が分断されている」といった課題があると認識したら、「目的の明確化ができているか」「一意性/一貫性が確保されているか」というところから見直すことをお勧めします。
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2025年12月12日 (金)
青山システムコンサルティング株式会社
