便利過ぎやしませんか? ~不便益という発想~ | 青山システムコンサルティング株式会社

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IT技術をはじめ、人類の様々な技術の進歩は、「高機能化」「効率化」、端的に言うと「便利」を目指して発展してきている部分が多いと思います。実際に身の回りのもの、例えばスマートフォンを見ても「便利」がいっぱい詰まっています。ここでいう「便利」とは何か?ここでは、「手間がかからない」「時間がかからない」と定義しておくことにします。

この「便利」を目指した技術発展により、テレワークをしたり、家に居ながら買い物をしたり、AIを使って短期間でワクチンを作ったりできるようになり、コロナ禍においても今も社会や経済は高い水準で機能し続けることができています。これはとても素晴らしいことであり、私自身こういった技術に助けられて生活していますし、そもそも技術が大好きです。
しかし、今回のコラムではあえて、

「便利すぎやしませんか?」

という問いを立ててみたいと思います。なぜこんな問いを立てるのか?
もちろん「便利」を目指すなと言いたい訳ではありません。「便利」が多くの場合良いものであるがゆえに、盲目的に「便利」を目指してしまうとどういったことを見逃してしまうのかを考えることで、実はもっと目指すべき方向があるかもしれないと気が付く機会が提供できればと思います。

 

 

「便利」の害


では、「便利」を目指すと見逃してしまうものとはどういったものがあるでしょうか。
例えば下記のようなものがあげられると思います。

 

  1. ブラックボックス化してしまう
    1. 中身がわからず、有事の際に対処ができない

  2. 誰がやっても変わらないものになってしまう
    1. 工夫の余地がなく、思考停止に繋がり、成長機会が失われる

  3. 素通りさせてしまう
    1. レールが敷かれているため、迷子や寄り道などの思わぬ出来事が起きない
    2. 過程で苦労をしないため、印象に残らず、インサイトも得られない

  4. 安心させ過ぎてしまい、危険行動を誘発してしまう
    1. 例: 自動車の自動ブレーキ機能により、危機感が希薄になる
    2. 例: バリアフリーにより、かえって足元に注意が向かなくなり転倒する

  5. 「やらずに済む」からいつの間にか「やらせてもらえない」へ
    1. 例: 自動運転区間では手動運転禁止
    2. 例: デバイスの中身を開けたらサポート対象外

 

これらはよく見ると、「便利」のここでの定義、「手間がかからない」「時間がかからない」の裏返しです。「便利」という言葉はとてもポジティブな意味合いであるだけに、盲目的に「便利 = 良いこと」と指標を置いてしまいがちですが、上記のようなネガティブな見方が存在しているので気を付ける必要があります。

 

 

「不便益」の発想


「便利」にネガティブな見方があるように「不便」にもポジティブな見方があります。これを京都先端科学大学の川上浩司教授は「不便益」と呼んで、「不便であるからこそ得られる効用」と定義しています。川上教授の著作<参考資料2>では、「不便益」の性質として下記6つをあげていますが、本コラムでは「3. 回り道、成長が許される」についてのみ触れたいと思います。残りの性質に興味がある方は<参考資料2>でご確認ください。

  1. アイデンティティを与える
  2. キレイに汚れる
  3. 回り道、成長が許される
  4. リアリティと安心
  5. 価値、ありがたみ、意味
  6. タンジブルである

 

「不便益」という発想は、「便利」以外の目指すべき方向のヒントを与えてくれます。具体的に「不便益: 回り道、成長が許される」に関連した例として、コンビニエンスストアの商品発注システムについて考えてみることにします。

各店舗で利用する商品発注システムを構築する際、その目的に「廃棄ロス、機会ロスの最小化、現場の手間の最小化」を置いたとします。よくある目標だと思いますが、これはまさに高機能化、効率化で「便利」を目指していますね。
この目的を達成するためには例えば、

  • 気候、天気、販売傾向、賞味期限、配送状況、廃棄ロス、機会ロス等を考慮して、AIが推奨商品や数を算出するシステム

を構築すればよいでしょう。発注者は端末画面に表示された発注を確認し、微修正して承認すれば良いだけですし、既存の商品を効率的に各店舗に配置できるので廃棄ロスや機会ロスは最小化されるかもしれません。

ここで、見逃された「不便益:回り道、成長が許される」について考えてみましょう。例えば下記があげられると思います。

 

  1. 品揃えを人が考えて商品発注した場合の偶然の気付き
    1. ミスやセオリーにない発注などから新たな法則を発見
    2. 特設コーナーが話題となりレギュラー化 など

  2. 商品発注で試行錯誤する過程は印象に残り安い
    1. 試行錯誤の過程では、よく観察したり積極的にコミュニケーションを取ったりするため、印象に残る事柄と多く出会え、より深いインサイトが得られる
    2. 商品発注のことが頭の片隅に残っていると、日常の中でも気付きを拾いやすくなる
    3. 印象に残る仕事がやりがいに繋がる など

 

これらの事柄は、「廃棄ロス、機会ロスの最小化、現場の手間の最小化」を考える上では不必要なものかもしれません。しかし、例えば「今無いものも含めて何を売りたいのか」や「街のプラットフォームとなるためには何を取り揃えておく必要があるのか」など、より上位のコンビニエンスストアとしての目的を考える場合には重要になってきます。そうすると、「商品発注」業務だけで見ると無駄が多いように思える、

  • 発注者が最適な発注の仮説作成、実行、検証ができるようなデータ、情報、状況を提示するシステム

が、コンビニエンスストアとしては大事な「益」を生む源泉になるかもしれません。

既存の範囲内で最適化を図る場合は、「便利」が役に立つことが多いですが、既存の枠を超えようとするとき、「便利」の追及で見落とされる「不便益」がとても大事になってくる例です。

 

 

まとめ


新しい事業を行う場合でも、ITシステムを導入する場合でも、「高機能化」「効率化」は目指すべき目標ですし、「手間がかからない」「時間がかからない」「便利」というのは顧客に提供すべき価値であると思います。しかし、初めから耳障りの良いワードだからと盲信せずに、是非「不便益」にも思いを巡らせるようにしてみてはいかがでしょうか。

 

 

参考資料


  1. 2021年11月11日「テレワーク実施率調査結果」東京都 産業労働局
    https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/11/11/12.html
  2. 川上浩司 「ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? ~不便益という発想」 インプレス

 

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2021年12月22日 (水)

青山システムコンサルティング株式会社

宿谷大志