コラムカテゴリー:DX(デジタル・トランスフォーメーション)
2021年4月22日にIPA(情報処理推進機構)から「デジタル時代のスキル変革等に関する調査報告書」が公開されました。
変革を推進する組織や人材マネジメントのあり方の調査を目的として、1,857社の企業と個人のアンケート結果を元に作成された報告書です。
調査サマリーとして以下のような内容が記載されています。
- DXに取組む企業が増加しているが無関心な企業や成果が出ていない企業が多く、DXの入り口で立ち往生している企業が大半。
- 先端IT従事者への転換可能性を持った人材が一定数存在するが、転換行動を喚起するような動機づけや適切な支援が不十分。
- 従業員は人材市場での自身の価値が把握できておらず、競争力の自信も持てていない。
上記の「1」に関連した内容のうち、DXの取り組みに苦心している企業の状況が伺える興味深いアンケート結果と指摘がありましたので、ご紹介します。
【報告書の指摘】
- DXで成果が出ていないと自己認識している企業では、『魅力的な仕事を用意できない』という”場”の問題もさることながら、『採用したい人のスペックを明確にできない』という回答が、成果あり企業に比べて多い。
- 人材不足を訴えてはいるものの、自社のIT人材の職種別人数やそのレベルについて把握できている企業が少ないこととも考え併せ、そもそものデジタル事業戦略や、その実現にあたってどのような人材がどの程度必要なのかが明確になっていない様子がうかがえる。
- 先端IT技術者への「転換志向」は現在の担当業務が非先端と回答した者のうち約42%を占め、相当な数の先端IT従事者の予備群が存在していると言える。
上記から以下のような状況下にある企業が一定数存在すると考えられます。
「戦略がない →必要な組織形態や人材要件が明確にできない →DX人材を採用できない→DXの成果が出ない」
このような企業はDXの成果が出ない原因を人材がいない事と考えてしまうため、DXの入り口で立ち往生してしまうのです。
以前、SIS(Strategic Information System)ブームやBPR(Business Process Reengineering)ブームがありましたが、それらはCIMやERPのような具体的な製品が存在し、例え戦略が無くても製品さえ導入すればブームに乗れた気分になれました。
しかし、DXは具体的な製品が無いため、人材採用に目が向けられているのだと思います。
ブームに流され本質を議論せず、技術導入・人材採用が目的化しているようで、不健全な状況に思えます。では、何故このような状況に陥るのでしょうか。私見ですが、以下のような要因があると考えています。
- IT企業のセールストークやメディアの中には、デジタル技術を競争優位を生み出す魔法の杖のように紹介する事があるため、経営者はとにかく技術導入・人材採用を行えば経営・業務上の問題が解消できると考えてしまう
- 戦略自体が存在しないため、経営者が技術導入・人材採用を戦略実行そのものと錯覚してしまう
- 従業員側では「DX人材」という称号と尊敬を得るため、つまり自身の市場価値向上を目的としているため、手段に過ぎないデジタル技術導入を最初から目指してしまう
- 会社(または社会)からDXを求められ、義務感や使命感、または、組織や個人の評価を上げるため、短絡的なデジタル技術導入を提案・推進してしまう
取り組みの成果は顧客サービスの付加価値向上、新たな顧客サービスの創造等を追求し戦略を実行した結果として現れるものです。成果を上げた企業は手段がたまたまデジタル技術を活用し画期的なものであった場合に、周囲からDXと賞賛されているだけで、元からDXそのものを目指していたわけではないと思います。
技術導入や人材採用の先行を最重要視するのではなく、独自性のある戦略を立て、必要であればその実行をデジタル人材と技術で支援することが、健全な取り組み方ではないでしょうか。
先日、クライアントの事業計画をヒアリングする機会がありました。
野心的な財務目標があり、それを実現するための顧客サービスの付加価値向上施策が立案されていました。その施策を実現するには人手では困難なため、様々な技術の活用が想定されていました。
全体を通してDXというキーワードはありませんが、環境変化への適応が考慮された施策になっており、健全な取り組みに感じました。
そのクライアントは将来的に結果としてDX実施企業と称賛されるかもしれませんが、そのような称賛への関心は薄く、目標達成に重要な事ではないのです。
<IPA デジタル時代のスキル変革等に関する調査>
https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20210422.html
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