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ナイトの不確実性

新しいことを始めるとき、皆さまはどうしているでしょうか。行ったことのない場所への旅行を例に、少し考えてみたいと思います。

行ったことのない場所へ旅行をする場合、最初に情報収集を行うことが多いのではないかと思います。その目的は、主には、旅行の目的を決め、それを達成する計画を立てるためではないでしょうか?

<ケース①>

例えば、集めた情報から、ルーブル美術館に行くという目的を決め、開館日に合わせて宿泊日と場所を選ぶなどの計画を立てたりすると思います。このケースの場合は、予約さえ取れればほとんどの場合その通りに実行できるでしょう。

<ケース②>

しかし、例えば、オーロラを見に行くという目的だった場合はどうでしょうか?オーロラが出やすい地域を探して計画を立てたとしても、確実に見れる保証はありません。つまり、「不確実性」があるケースですね。こういったケースでは、オーロラが出やすい時期の情報を集めて分析するなどして、目的達成の確率を出来るだけ上げる努力を行ったりします。

<ケース③>

では例えば、旅行ガイド、ブログ、SNSなどにも載っていないような、唯一無二の旅の体験をするという目的だった場合はどうでしょうか?具体的な目的も曖昧で、旅先で何に出会えるのかも不明な上、その出会いの発生確率も想定できません。こういった、何が起きるかが不明な上、その発生確率も不明な計測不可能な不確実性を「ナイトの不確実性(参考資料1)」というのですが、このケースではどうやって計画を立てればよいでしょうか?

コーゼーションとエフェクチュエーション

一般に、不確実性への対処方法としては、「追加的な情報を収集・分析することによって、不確実性を削減させる」ことが目指されると思います。上記の<ケース②>もこの例で、行動を起こす前に出来る限り詳細に環境を分析し、最適な計画を立てることを重視します。こうした思考様式を「コーゼーション(causation:因果論)」(参考資料2)と呼びますが、コーゼーションの考え方は、ビジネス実践の場では特に、広く浸透した考え方であると思います。ただし、これが有効なのは、当初から目的が明確であり、環境が分析に基づいて予測可能な場合に限られる点に注意が必要です。

上記の<ケース③>のように、初めの時点では目的と機会が明確に見えていないような不確実性が高い場合には、事前の分析や予測に膨大なコストがかかるか、あるいは不可能だったりします。また、仮に分析や予測が出来たとしても、不確実性の高さゆえに、役に立たないものであったりします。では、こういったケースにおいては、どういう考え方を取ればよいでしょうか?

本コラムでは、「エフェクチュエーション(effectuation:実効理論)」という考え方をご紹介します。

エフェクチュエーションとは、「熟達した起業家に対する意思決定実験から発見された、高い不確実性に対して、予測ではなく、コントロールによって対処する思考様式」で、サラス・サラスバシーという経済学者によって提唱されました(参考資料2)。エフェクチュエーションの詳細については参考資料2や3をご参照いただくとして、ここではその考え方を端的にお伝えする事にします。

<エフェクチュエーションの考え方>

  1. 事前の分析や予測による計画立案は諦める
  2. 現時点で手持ちの、かつ、使用しても構わない資源を使って何らかのアクションを起こす
  3. アクションに対する何らかのリアクションや出会いを取り込んで、手持ちの資源を増やし、曖昧な目的自体も更新しながら、次のアクションを起こす
  4. 活動の一貫性を保つための指針として、目的は可変で利用できないため、さらに上位の概念(「私は誰か」といったアイデンティティに関わる概念など)を利用する

つまり、ゴールを設定してそこへ向かっていくコーゼーションに対して、エフェクチュエーションは、ゴールを定めず、アクション・リアクションを起こし続けることで新資源(情報やパートナーなど)を得ることを重視します。そして、アクション・リアクションを起こし続けるために「手持ちの、かつ、使用しても構わない資源」の範囲内で実行することで、資源の枯渇を防ぐようにコントロールすることを重視します。ゴールは、この活動を続けていって、行きついた先がゴールということになります。

<ケース③>の例で言いますと、例えば、大道芸という資源を持っていたとしたら、旅先で大道芸というアクションを起こして、周囲からリアクションをもらえるようにします。例えばそこで、ピアノを弾ける人と出会い、その人にとってピアノを弾くことが使用してもかまわない資源である場合、その人を巻き込んで次にはピアノを弾きながら大道芸をするというアクションを起こします。その際、巻き込んだ人の目的なども反映して目的自体を更新しながら、手持ちの資源を育てつつ、これを繰り返していくイメージです。

最後に

このエフェクチュエーションの考え方のビジネス実践の場における応用としては様々考えられますが、例えば新規事業などの企画フェーズとの相性は良いように思います。まだ最終ゴールの明確な形が見通せないような不確実性の高い状況では、頑張って見通そうとするよりあえてゴールを定めないことで思わぬ発展の余地を残すのもひとつの戦略です。エフェクチュエーションの考え方はそのための指針を与えてくれるかもしれません。

なお、最後に明示しておきたい事として、コーゼーションとエフェクチュエーションのどちらが優れているということはありません。それぞれ、適用シーンが異なるので、適切に使い分ければ良いのです。

本コラムで言いたいことは、コーゼーションではうまく対応出来ないシーンがあることと、エフェクチュエーションという考え方があるということを認識した上で、日々の生活や仕事に取り組むことで、より良い結果が得られるチャンスが生まれるかもしれないということです。皆さまもぜひ身の回りの事例で考えてみてはいかがでしょうか。

参考資料

  1. Knight, F. H. (1921) “Risk, uncertainty and profit” Boston: Houghton Mifflin (奥隅栄喜訳 『危険・不確実性および利潤』 文雅堂書店, 1959)
  2. Sarasvathy, S. D. (2008) “Effectuation: elements of entrepreneurial expertise” Northampton: Edward Elgar Publishing (加護野忠男監訳, 高瀬進・吉田満梨訳 『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』 碩学舎, 2015)
  3. 吉田満梨・中村龍太 『エフェクチュエーション:優れた起業家が実践する「5つの原則」』 ダイヤモンド社, 2023
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2024年05月27日 (月)

青山システムコンサルティング株式会社

宿谷大志