コラムカテゴリー:プロジェクトマネジメント
はじめに
プロジェクトマネージャが果たすべき責任の一つとして、スケジュール管理があげられます。では、スケジュール管理を行うためのWBS(※1)は何方が作成すべきでしょうか?
「システム開発・保守調査報告書 2020年版(※2)」によると、要件定義~統合テストでは、約7~8 割程度のプロジェクトで受注側(ベンダー)が作成しており、ユーザー側はベンダー作成のWBSを利用しているとのことです。
みなさんはいかがでしょうか?
ベンダーにお任せしているようでは、プロジェクトはうまく進まないでしょう。
- ※1: WBS(Work Breakdown Structure)とは
- プロジェクトの作業を細分化して、各担当者の作業を示したものです。
- ※2: システム開発・保守調査報告書
- 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会による調査「システム開発・保守調査報告書 2020年版」
ベンダー作成のWBSで管理することの弊害
ベンダー作成のWBSだけで管理するとタスク漏れやスケジュール遅延が発生することがあります。その根本的な原因は、ユーザーとベンダーではプロジェクトの目的が異なるからです。ベンダーのゴールはシステム構築ですが、ユーザーのゴールはシステムを会社全体の業務に最適化させることです。この目的の違いから、以下2つの弊害が発生するのです。
弊害1: システム構築に限定されている
ベンダーが作成したWBSはシステム構築にフォーカスした管理表です。システム導入に伴い、ユーザー側で対応すべき調整や検討事項が記載されていないことが多いです。記載されていたとしても、ほんの一部でしかありません。
例えば、システム導入に伴う業務フローの改善や関連部署への合意、人員の配置変更などの社内調整はWBSには含まれていないでしょう。その他にも、顧客への告知や説明などもWBS には記載がないでしょう。このように、ユーザーのシステム運用に向けて必要なことが漏れてしまう可能性が高いです。
弊害2: 粒度が粗い
ベンダーが割り振るユーザーのタスクは粒度が粗すぎることが多いです。ベンダー視点では一つの作業タスクとして管理できますが、ユーザー視点では複数タスクに分けて管理すべき作業があります。
仮に、ユーザー側のタスクに「データ移行」が割り振られていたとしましょう。ユーザーによっては対象データの「選定」、「抽出」、「データ加工」、「取込」、「関連部署への確認」などのように作業を分けて、異なる担当者が担うことがあるでしょう。しかし、これらの作業分担はユーザー企業によって異なり、ベンダー側ではユーザーに適したタスクの細分化は出来ないです。そのため、ベンダーのWBSにはシステム構築の観点から作業が漏れないような大枠のみを示すことになるのです。このようにタスク粒度の粗いWBSをそのまま利用しようとすると、ユーザー担当者は個々の作業を把握できずに身動きが取れない可能性が高くなります。
自社でWBSを作成するコツ
ここまでで、ベンダーが作成したWBSで管理をすることで不測の事態が発生しやすくなることは理解して頂けたかと思います。しかし、WBS を作成する時間を確保できないという方もいるでしょう。特に中堅・中小企業の方々は少ない人的リソースで本業と並行してプロジェクト管理をすることが多いからです。
打開策としてベンダー作成のWBSへ自社用の タスクを追記する方法を紹介します。以下の手順で作成時間を短縮することが見込まれます。
① 対ベンダーへのタスク追記
ベンダーのタスクと対になるユーザー作業を追記します。例えば、ベンダーの作業が「基本設計書の作成」である場合、ユーザータスクの作業は「基本設計書の受領」になります。ベンダーの作業はユーザー側で責任をもって受領及び検収をしなければならないため、タスクが抜けている場合には追記をする必要があります。作業イメージが湧かないものについては、ベンダーに確認をしてユーザー側でチェックする事項を把握できるようにしましょう。
② 対ステークホルダーへのタスク追記
システム運用に向けての調整や検討すべきことをWBSに追記します。ここでは、システム稼働後のステークホルダーの動きを想定することが重要です。
まずは、システムを構築することで少しでも影響を受ける関係者を列挙します。影響範囲はシステム利用部門の業務に限らず、企業全体の運用を俯瞰的に確認しましょう。次に、システム構築フェーズごとに列挙した関係者と何を確認・合意すればよいかを洗い出してください。どうすればシステム運用開始時のトラブルを防ぐことが出来るのかを考えるようにしましょう。
上記の作業に関しては多面的にものごとを捉える必要があるため、小人数で完結させないことも重要です。プロジェクトメンバーだけではなく、関係者にヒアリングすることを推奨します。
③ タスクの細分化
上記の作業で書き出した タスクの多くは粒度が粗いでしょう。まずは成果物単位や作業単位に細分化を行います。細分化における粒度の基準としては、1タスク1担当者に設定ができていることです。担当者欄に部署名や複数連名が入ってしまう場合には、タスクの粒度がまだ粗いです。個人名を入れられるように細分化をしましょう。どうしても細分化が出来ない場合には、担当者間で作業を進行させる代表者を調整することが必要です。WBSのタスクを見るだけで、各担当者が作業イメージを描くことが出来る状況にすることが望ましいです。
以上が自社のWBSを作成するコツです。
最後に
システム構築をベンダーと協業する場合には、ユーザー側の主体的な取り組みが必須です。まずは、自分たちが作成したWBSを利用してプロジェクトに取り組みましょう。もちろん、作成を目的化するのではなく、社内やベンダーとの調整に活用し続けることが重要です。WBS 作成一つとっても、お任せ体質によるプロジェクトの失敗要素は数え切れません。今回のコラムがプロジェクト管理を主導で取り組むための一助となれば幸いです。
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2022年04月11日 (月)
青山システムコンサルティング株式会社