コラムカテゴリー:DX(デジタル・トランスフォーメーション), ITコンサルティング, 情報戦略/業務改革
記事の執筆
近藤 直樹
準大手物流企業のIT部門に10年以上在籍し、ITインフラの保守・運用から、IT戦略、個別システム化計画の立案など幅広い業務と数々のプロジェクトを経験。また、営業部門にも籍を置きながら、DX推進のために事業とITの橋渡し役を担う。 青山システムコンサルティングに入社後は、それらの豊富な経験を活かし、クライアントにとって最適な伴走者であることをモットーにコンサルティングにあたっている。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、現代の経営における重要課題のひとつであることは、もはや全ての企業共通の認識だと言えるでしょう。しかし、実際には「DXを進めよう」という意気込みとは裏腹に、ITツールの導入や、特定業務の効率化で終わってしまい、「これが本当にDXなのか?」と立ち止まってしまうケースが後を絶ちません。
そのようなお悩みを深掘りしていくと、DXによって「どんな姿を実現したいのか」という「目的地」がいまだ曖昧だったり、そこへ至るまでの「ルート」が整理されていなかったりすることが往々にしてあります。それは、まるで地図を持たずに森をさまよっているような状態です。
本コラムでは、この「地図」と「目的地までの道のり」を「DX戦略」とし、その策定の際に役立つフレームワークをご紹介します。皆様が自信を持ってDXを推進していくための一助になれば幸いです。
DXには戦略が必要不可欠
DXとは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス、組織文化を変革し、競争優位性を確立することです。「ビジネスモデルや組織文化の変革」を伴うため、短期で完結することはなく、むしろその道のりは長いものになります。
しかし、地図もなく、行きかたも不明確な状態では、とりあえず目の前の道を進んでみるしかありません。DXのような取り組みには「まずはやってみよう!」という姿勢も大事ですが、それだけではやり遂げられません。いずれはどこかで道を間違えたり、目的地を見失ったりしてしまうでしょう。

しかも、この旅は一人旅ではありません。様々な立場の人たちを巻き込んだ長い旅になります。多様なメンバーが足並みを揃えて進んでいくためには、目的地とルートが記された「確かな地図(戦略)」の共有が不可欠なのです。
DX戦略策定にフレームワークを使うメリット
では、その重要な「DX戦略」は、どのように描いていけばよいでしょうか。
「戦略をつくれ」と言われても、ゼロから練り上げるのは簡単ではありません。そこで有効なのが、思考や分析を構造化するための「型」である フレームワーク です。
DX戦略のように複雑で関係者も多い取り組みでは、情報を一定の型に沿って整理することで、経営層・IT部門・現場部門といった異なる立場の人々のあいだで 共通の物差しとなり、議論を効率的に前進させることができます。フレームワークは、戦略策定のプロセスをわかりやすくし、検討漏れや視点の偏りを防ぐ上でも有効です。
それでは、DX戦略の策定に役立つフレームワークを、以下のステップに沿って紹介していきます。
- DXの方向性を定める
- DX施策を立案する
- DX施策の実行順序を決める
DXの方向性を定める
最初に決めるべきは「どこへ向かうか(目的地)」です。これは「ビジョン」とも言います。
ビジョン策定に用いるフレームワークには、クロスSWOT分析など有名なものが多々ありますが、本コラムでは弊社が提唱する「Will Beモデル」(商標登録 第6272163号)の活用を推奨します。
詳細は以下のリンク先に譲りますが、「Will Beモデル」は「ありたい姿」とも言い、次の3つの要素をまとめたものです。
- 5年以上先を見据えた会社のビジョン
- デジタル化を盛り込んだビジネスモデル
- 提供したいCX(Customer Experience)
リンク:「Will Beモデル」って、初めて聞いたんですけど。
リンク:良い「Will Beモデル」ってどんなもの?
しっかりした「Will Beモデル」を作り上げられれば、それは長期的にDXを進める上での道標となり、関係者の間での共通言語としての役割を果たします。この後に立案する各施策も、全てこの未来像を実現するためのものになります。
DX施策を立案する
「Will Beモデル」で目的地を定めたら、そこへ到達するために必要となる、具体的な「施策(アクションプラン)」をリストアップします。目的地までのルートを検討する作業です。
ここでは、経済産業省による「DXレポート2.0」で示されている「DXフレームワーク」が有効です。このフレームワークは、DXの成熟度を以下の4つのレベルに分け、「製品/サービス」「業務プロセス」「プラットフォーム」という3つの視点から整理するものです。現状と目指すべき状態を可視化することで、どのようなステップアップが必要かを示唆してくれます。

まずは、以下のような表を用意して、一番右上に「目的地(=Will Be)」を配置します。その上で、自社の「製品/サービス」「業務プロセス」「プラットフォーム」の現状を書き出していきます。
≪ある設備メンテナンス会社の例≫

この設備メンテナンス会社の例では、故障後の事後対応や、定期点検といった受け身のサービスモデルから脱却し、「長年のノウハウと最新技術を活かした予防保守・稼働率改善指導で顧客と一体となって成長する」という変革を目指しています。しかし現状は、受付や請求といったバックオフィス業務はシステム化されているものの、顧客接点となるサービス領域ではデータ化(デジタイゼーション)も進んでおらず、アナログな運用になっています。
このように現状を書き出したら、各領域(製品/サービス、業務プロセス、プラットフォーム)が、どのようなレベルアップを遂げれば「目的地」に到達できるのかを考えながら、空白のマスを埋めていきます。

この例では、サービス面においては、故障・点検・修理といった対応履歴のデータ化や、IoTでの設備稼働データの収集、並行して受注や請求のプロセスをWebで顧客とつなぐことなどが、直近の施策の有力候補として立案できそうです。
このようにDXフレームワークを使って議論を進めることで、自社が目指す姿と現在地との間に存在するギャップが明確になり、どの領域でどのような施策が必要なのかが浮かび上がってきます。
DX施策の実行順序を決める
具体的な施策がリストアップできたら、それらを「いつ、どの順番でやるか」という実行順序を決めます。この段階で判断材料になるのが、「インパクト×実現難易度」マトリックスです。各施策を以下の二つの軸で評価し、マトリックス上に配置します。
縦軸:インパクト
(例: 売上向上、コスト削減、生産性向上、顧客満足度向上、リスク低減 など)
横軸:実現難易度
(例: 期間、費用、必要技術・スキル、関係者の多さ、既存システムへの影響度 など)
実行順序を決める際の基本原則は、このマトリクスに従い、「インパクトがあり、かつ簡単なもの」から着手することです。 DXという長旅において、「成果が出た」「業務が楽になった」という成功体験を早期に作ることは、推進の勢いをつけ、中長期的なモチベーションを維持する上で重要だからです。まずはこの原則に沿って、実行順序の「あたり」をつけます。

その上で、最終的に実行順序を決める際には、「施策間の依存関係」や「システム全体最適」といった点がないかにも注意します。例えば、以下のように「難易度が高くても、これを先にやるべきでは?」というケースが出てくることがあります。
- システムAのバージョンアップ前に新機能Bを開発すると、バージョンアップ後に再度改修とテストが必要になる
- システムCとシステムDの導入は、共通基盤Eを先に構築しておくほうが効果を最大化できる
このような場合は、基本原則である「インパクト×実現難易度」だけを判断軸とはせず、全体最適の観点で順序を検討することも必要です。
DX戦略策定はみんなの手で
最後に、DX戦略を描く上で最も大切なことをお伝えします。それは、「特定の立場や部門の人だけで決めない」ということです。
多様なメンバーを交えて何度も対話を重ねることで、施策のアイデアや優先順位が実態に即したものとなり、「絵に描いた餅」ではなく、「血の通った戦略」へと磨かれていきます。フレームワークという共通の物差しを使いながら、ぜひ膝を突き合わせて議論してみてください。
とはいえ、社内だけで進めるには、専門的な知見が足りなかったり、部門ごとの事情や既存の前提にとらわれ、客観的な視点が欠けたりすることもあるでしょう。そんな時は、第三者であるITコンサルタントを頼ってください。「DXの実現」に向けて、私たちが皆様のガイド役となり、豊富な経験と知見で伴走いたします。
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2025年12月04日 (木)
青山システムコンサルティング株式会社
