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記事の執筆
システムコンサルタント山口 晃司
システムインテグレーター企業に15年間在籍し、SE、プロジェクトマネジャーとして数多くのシステム開発に携わってきました。そこで培った知識と経験を基に、現在はシステム構築におけるプロジェクトマネジメントへの参画や、見積技術をベースとしたシステムデューデリジェンスなどに取り組んでおります。
昨年末、一冊の本を手に取りました。動物言語学者の鈴木俊貴氏による『僕には鳥の言葉がわかる』です。2026年のお正月に実家でごろごろしながら読み始めたのですが、その面白さに数日とかからず読み終えてしまいました。
この本は、シジュウカラの鳴き声には人間同様の「意味」が含まれるものがあり、その一部は別種の鳥にまで理解されていること、さらには複数の「単語」を組み合わせて「文」として操っていることなど、世界的な大発見を記したものです。その研究過程と成果がわかりやすく描かれており、知的好奇心を刺激されました。
読み進める中でITコンサルタントとしてのアンテナが反応した箇所がありました。それは、鈴木氏が鳥の行動を観察し、それが「言葉を理解している証拠」であることを証明するために用いた「論証」です。
私は文系出身のITコンサルタントです。理系の研究プロセスには馴染みがありませんが、「論証」は我々ITコンサルタントにも不可欠な要素です。なぜなら、ITコンサルタントの説明やレポートは、常に論理的で根拠を伴ったものであるべきだからです。そうでなければ、クライアントからの信頼を得ることはできません。
では「論証」とはどのようなことでしょうか。
簡単に言えば、「ある結論が正しいことを、根拠(や前提)を示して証明すること」です。
論証には、大きく分けて3つの基本構造があります。
1. 単純論証 A → B(AだからB)
一つの根拠から一つの結論を導く、最小単位の構造です。非常に明快ですが、根拠が崩れると結論も崩れます。
例:「最新のセキュリティパッチが未適用である。だから、このシステムは脆弱である。」
2. 結合論証 A & B → C(AかつB、だからC)
複数の根拠がセットになって一つの結論を支える構造です。根拠が一つでも欠けると、結論を導くことができません。
例:「リモートワークを導入したいが、現在の社内規定では出社が必須である。だから、就業規則の改定が必要である。」
3. 合流論証 A | B → C(AまたはB、だからC)
独立した複数の根拠が、それぞれ同じ結論を補強する構造です。もし一つの根拠が崩れても、別の根拠が生きている限り、結論は維持されます。ビジネスの説得において非常に強力な形です。
例:「A案は初期費用が安い。また、A案はサポート体制が充実している。だから、A案を採用すべきだ。」
現実のビジネス文書や研究論文の文章は、一つの論証だけで完結することは稀です。実際にはこれらが複雑に組み合わさって構成されています。
【複数の論証が入り混じった例】
「社内各部門でデータの定義が異なるため、全社集計に膨大な突合作業が発生しています。この非効率な現状に対し、マスターデータマネジメント(MDM)の仕組みを導入してデータの整合性を確保すれば、リアルタイムな経営判断やAI分析の精度向上が果たされ、結果としてデータドリブン経営への転換を加速させられます。」
- 単純: データ定義の不一致 → 全社集計の非効率
- 結合: 非効率な現状 & MDM導入 → データの整合性確保
- 合流: (整合性確保を土台として) リアルタイム経営判断 | AI分析精度向上 → データドリブン経営の加速
これを使いこなすとなると簡単ではありません。自分が話す時、文章を書く時、常にこの構造を意識する必要があります。
実際の文章を見てどのような論証になっているか考えてみましょう。(答えは当コラムの末尾)
【問題1】
「システム開発のすべてをベンダーに丸投げしているため、自社内に技術的な知見が全く残っていません。このブラックボックス化した現状に、再教育プログラムとアジャイル開発手法をセットで導入し、自走できる体制を構築することで、プロダクト改修の高速化と将来的な外部委託費削減という二極のメリットを享受できます。」
【問題2】
「最新のバックアップ体制を整えることは、攻撃被害の最小化と迅速な業務再開を可能にし、『止まらない会社』への進化をもたらします。ただし、この進化を実効性あるものにするには、安全な場所へのデータ保管と定期的な復旧訓練の実施が不可欠です。そもそも、昨今のサイバー攻撃を100%防ぐことは不可能である以上、これらの対策は、今や最優先で取り組むべき経営課題といえます。」
わかりましたでしょうか?
常にこのような論証の構造を意識することで、今までよりも論理的な説明ができるようになります。ビジネスで相手を説得する際には、大いに役立つでしょう。
ただし、最後に一つだけ・・・
論証を使いこなせるようになっても、会話においては、時にそれを使うことを控えた方が良い場合があります。なぜなら、そこには逃げ場のない「結合論証」が完成してしまうからです。
- 前提A: 正論を振りかざす理屈っぽい人は、周囲を疲れさせる。(法則)
- 前提B: あなたは、一分の隙もない論証を相手に展開する。(事実)
- 結論: したがって、あなたは相手から「面倒な人」と思われてしまう。
このように、論理的に正しければ正しいほど、コミュニケーションとしては致命的な結果におちいるというパラドックスが生じる場合があります(笑)
ビジネス文章や説明・説得においては「論証」を重んじるが、時と場合によっては理屈を脇に置いて「行間」「ゆとり」を見せる。それが知的な大人のあり方ではないかと思います。
【問題1】(答え)
- 単純: ベンダー丸投げ → 技術的知見の欠如
- 結合: 知見欠如の現状 & 再教育プログラム & アジャイル手法 → 自走体制の構築
- 合流: (自走体制を土台として) プロダクト改修の高速化 | 外部委託費の削減 → IT投資価値の最大化
【問題2】(答え)
- 合流: 被害の最小化 | 迅速な業務再開 → 『止まらない会社』への進化
- 結合: 進化 & 安全な保管 & 復旧訓練 → 実効性ある体制の実現
- 単純: 100%の防御は不可能(という動かせない事実) → 最優先の経営課題である
2026年01月18日 (日)
青山システムコンサルティング株式会社
山口 晃司
