【連載5】顧客接点のデジタル化

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本稿は、月刊ビジネスサミット(2021年10月号~2022年3月号)に「中小企業のDX入門」(寄稿:ASC長谷川智紀)という連載企画で掲載された記事を再編加工したものです。

顧客接点に関する課題

対面などのアナログな顧客接点におけるいちばんの課題は、物理的な距離の制約だろう。さらに、移動や対面に対する心理的ハードルが高くなっている現在は、店舗での接客や営業活動自体にも制約が加えられることが少なくない。顧客接点のデジタル化は、こうした課題を解決する近道だと言える。

顧客接点におけるデジタル化とは、オンラインで世界中の顧客と接する機会を持てるようになることだと捉えておおむね問題ない。最もわかりやすいのはEC(電子商取引)だろう。
現在は、オンラインで商品を購入したり、サービスを受けたりすることが当たり前になっているため、ECの事業展開がイメージできない人はいないだろう。

経済産業省の調査でも、BtoCのEC市場規模は、2010年の約7.8兆円から2019年には約19.4兆円に伸長している。これだけでも、ECを検討する理由になり得る。また、物販系分野だけでなく、サービス系分野においてもECの市場は伸びており、どんな業種であってもオンラインを意識するべき状態である。

同じことはBtoB においても言える。経済産業省の調査で、BtoB のEC市場規模は、2010年の約256兆円から2019年には約352兆円となっている。この数字には海外とのEC(越境EC)は含まれていないため、含めたときの市場規模はさらに大きくなる。

また、総務省が調査した年代別のコミュニケーション手段によると、「全年代の傾向としてソーシャルメディアの利用が増加傾向にあり、特に若年層では移行が進んでいる」とある。つまり、20代以下になると、電話やメールよりも簡易的な、チャットなどでのコミュニケーションが望まれている旨が読み
取れる。この流れに対応しなければ、顧客接点はおのずと減少していくこととなる。

顧客接点のデジタル化

ECサイト

簡易にBtoCのオンライン化に着手するのであれば、著名なECのプラットフォーム上に出店するのが手っ取り早い。感覚的に使えるように整備されているため、画面表示に従うだけでネット上に店舗が開設できてしまう。商品によっては、倉庫で保管するところから配送業務までを代行してもらうこともでき
る。

しかし、販売手数料は決して安くはなく、商品の独自性を出さなければ、激しい価格競争に晒される。したがって、上位表示や広告表示といったある程度の対策は事前に検討しておきたい。

また、自社でECサイトを構築することも選択肢に入れたほうがいい。現在は、ECサイト構築サービスも充実しており、すべてを自前で作り込む必要もない。こういったサービスの中には、例えば、海外向けの販売を強化する際に、オプションの購入だけで対応できるものもある。

まずは、おぼろげながらでも、自社の展望に合わせて利用するサービスを選択し、ECが軌道に乗ってきた段階でサービスの切り替えを考えるという進め方がいいだろう。

BtoB は、BtoCのようなプラットフォーム上に出店もしくは出品してウェブ受注をする方式と、企業間でEDI(電子データ交換)を導入し受発注処理をする方式がある。EDIは取引先ごとに対応が必要となるため、特に中小企業には負担が大きい。すでに、大企業からの依頼で対応しなければならないケースもあるかもしれないが、自社中心で取り組むのであれば、ウェブ受注型を検討したほうがいい。

BtoB のプラットフォームも、将来的には自社の基幹システムと連携することが望ましいが、まずは小さく早く利用してみてから、本当に必要な機能を洗い出したほうが結果的にリーズナブルに済むケースが多い。

チャットボット

テキストや音声による顧客からの問い合わせに自動応答するチャットボットは、コミュニケーションがソーシャルメディア中心の世代にとっては、馴染みのある仕組みである。顧客から能動的に接触してくれる問い合わせは、事業上かけがえのない財産であることは言うまでもない。リアルタイムで顧客対応
することによって顧客の満足度を上げるだけでなく、問い合わせ内容をデータで蓄積できることは大きなメリットとなる。

導入時における留意点

ECにしてもチャットボットにしても、デジタルデータを分析することで、次のアクションについて検討できる。また、販売時や問い合わせ時に顧客の属性情報をデジタルデータとして取得することで、アナログのときには難しかった顧客分析も定量的に行うことができる。

CRM(顧客関係管理)システムの導入となると急にハードルが高くなるが、まずは表計算ソフトなどで顧客分析を行い、効果が得られそうであれば検討するというステップを踏めばいい。

マーケットも顧客行動も先が読みにくい時代であるため、経営者の経験や勘だけではどうしても見誤ってしまう可能性が高くなる。そんな経営環境において最も望ましいのは、経営者が従業員にデータで説得される状態である。一朝一夕には実現できないが、デジタルデータを地道に増やしていくことが肝要だ。

データ分析は、仮説と検証を繰り返す必要がある。デジタル活用の成熟度が高い企業になるためには、泥臭い作業に想像以上の汗をかかなければならない。だからこそ、早く着手した企業にアドバンテージが発生するのである。

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2022年08月26日 (金)