【連載3】個別業務プロセスのデジタル化

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本稿は、月刊ビジネスサミット(2021年10月号~2022年3月号)に「中小企業のDX入門」(寄稿:ASC長谷川智紀)という連載企画で掲載された記事を再編加工したものです。

業務プロセスに関する課題

何のためにDXないしデジタル化を進めるのか。それは不確実性が高い世界でより精度の高い意思決定を行い、経営を持続させるためにほかならない。不確実性に対抗するためには、失敗を繰り返しながらコツコツとデータを収集し、成功に近づけていく過程が必要になる。なぜなら、失敗をせずに成功しても再現性が保障されないからだ。失敗を繰り返す行為は、時間もコストもかかるため、短期的には評価されないが、持続的な経営には欠かすことのできないプロセスなのである。

デジタル化しやすいのは、既に定型化されている業務プロセスであり、不確実性が高いプロセスは不向きである。つまり、人間がやるべきは、不確実性が高いプロセスで失敗を繰り返すこと。逆に言えば、定型化されている業務をデジタル化することで、「人間がすべきことに注力できる環境をつくる」ことができる。これこそが、業務プロセスをデジタル化する本来の目的である。

一方で、デジタル化による業務の高速化や効率化、そして人的ミスの削減などは、短期的に得られる大きなメリットであることは間違いない。また、プロセスがデジタル化されていると、プロセスの評価および分析をデジタルデータで行うことができる。これにより、アナログなプロセスでは考えられないぐらいの速さで改善のサイクルを回すことが期待できる。

人的作業の整理が必須 個別業務プロセスのデジタル化

RPAによる作業の自動化

個別の業務プロセスをデジタル化するときに、真っ先に思いつくのはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用だろう。これにより、PC上のルーティンワークや手順が決まった作業を自動化することができる。導入自体は難しくないが、注意しなければならないことがある。それは、人間が行っている業務プロセスを整理することなくRPAの設定を始めてはならない、ということだ。
人間は賢いので、多少のイレギュラーは吸収できるが、RPAは設定されていないイレギュラーには対応できない。イレギュラーなケースが年に数回しかなくとも、トラブルを避けるために、必ず業務プロセスを整理しておいたほうがいい。また、業務プロセスを整理することで、業務の変更や追加の際にも、RPAの設定ミスを防ぐことができる。

導入する際のもうひとつのコツは、RPAのスケジュールを管理する担当者を決めておくことだ。RPAは24時間稼働できるので、隙間なく稼働させることが最も効果的だが、同時には1つの業務しか作業できない。したがって、どの業務をいつ行わせるのか、調整する担当者が社内にいることで稼働率を高くすることができる。

OCRで紙書類をデジタル化

最近は、AIを搭載したOCR(光学文字認識)製品により、非定型な帳票も認識可能になっているが、人間による目検が必要であることは変わらない。そのあたりも考慮したうえであれば、導入を検討してもいい精度になってきている。

OCRで紙書類をデジタル化できれば、同時にクラウドストレージを活用することでペーパーレス化も一気に進む。クラウドストレージにより、情報が一元化されれば、社内における情報の散在を防ぐことができ、情報の整合性の確認が不要になる。これにより、見えにくい非効率な工数の削減も期待できる。

ちなみに、ペーパーレスは業務プロセスをデジタル化した結果として達成するものであって、目的や課題として設定すべきものではないことをここで言い添えておきたい。

営業進捗状況を可視化するSFA

少し難易度が高くなるが、SFA(営業支援システム)を活用して、営業活動をデジタル化できれば、属人的でブラックボックスになりがちな営業進捗状況が可視化できる。営業活動の可視化は、適切なフォローアップや打ち手の検討を可能にする。

SFAの導入は、営業担当者からすると入力作業が増えるため、反発されたり、適切に使用されなかったりする。したがって、SFAを通じて営業活動に有益な情報のフィードバックを仕組み化するなど、営業担当者の気持ちに寄り添った設計をすることが活用への近道となる。

導入時における留意点

クラウドで提供されているサービスを選べば、初期投資が低く済む。しかし、ツールを入れただけでは効果は出ない。使い倒すぐらいの気持ちで、どうすれば効果が出るのかを考え抜くことが重要である。特に、業務プロセスに関する製品は、ノーコードもしくはローコードで設定できることが多いため、
プログラミングの知識を持たずとも社内で作り込むことができる。

定期的なモニタリングや大きな意思決定には経営者の参画が必要だが、細かい部分は現場の担当者に任せることも重要である。このときに肝要なのは、失敗を許容し、長期的な視点で見守ること。短期的な成果を追い求めすぎると、担当者が萎縮してしまい、デジタル活用が進まなくなってしまう。

別の観点から見れば、業務プロセスの改善は従業員の成長には絶好の機会である。業務プロセスを変えるときには、デジタル化するかどうかに関係なく、前後の業務を知らないわけにはいかないからだ。業務プロセスをデジタル化することだけを目的にするのではなく、会社全体の成長および底上げも視野に入れて進めて欲しい。

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2022年06月30日 (木)